2005年12月04日

遠巻きの父たち

A Rush Of Blood To The Head.jpg
Coldplay / A Rush of Blood to the Head

日曜日の仕事が終わって、歩いてレンタルCD店に向かう。
Coldplayのセカンドアルバムを借りる為。
数年前に流行った時は、類型的なメロディ。ズルズルしたキレの無い演奏。暗く艶のない声。と酷評したバンドだった。
でも、今頃になって「In My Place」のメロディが頭から離れない。
自身の批評眼が、いかに役に立たないかを痛感。
まぁ、だから音楽を聴くのは面白い訳だが。

Coldplayを手にとってJAZZのコーナーに回る。Art Blakey And The Jazz Messengersのアルバムを物色。Lee MorganとWayne Shorterが吹いてた時期が聴きたい。

隣に立って、CDを選んでいた男性から顔を覗きこまれる。
「○○ちゃんの、お父さんですよね?」
娘の同級生の父親だ。嫁さん同士が仲良しで、春の運動会で一緒に弁当を食べた。

「どうも、いつもお世話になっています」私と彼は、頭を下げ合う。
彼は、港で働いていると、うちの嫁さんから聞いていた。なるほど、ガッチリした体格。太い腕。厚い胸板。短く刈り込まれた髪。鍛え込まれた肌。
私は、こういう男性を見ると、無条件に尊敬してしまう。彼らに比べたら、我々の商売なんてママゴトだ。いつでも、そう思っている。

「JAZZ、お好きですか」彼は、屈託無く、私に尋ねる。

「あ、いや〜。好きって程でもないんですが〜」私は実生活で音楽の話は、まるで駄目で、いつものようにシドロモドロになる。
「JAZZは、お好きなんですか?」私は照れながら彼に聞く。

「好きです」彼は深く、うなずく。
実に男らしい。私は、いつものように自身を恥じる。

借りたCDを手に持って、レンタル店を出る。
「車ですか?」彼は、笑顔で私に尋ねる。
「いや。歩きです」

彼は、うなずいて「では、途中まで、ご一緒しましょう」。道を歩き始める。

寒波の到来は、風をもたらした。朝から強風が吹いている。
銀杏並木から黄色い落ち葉が舞い上がる。歩道は、黄色のペンキをぶちまけたように見える。

歩道に面した商店は、クリスマスのディスプレイで彩られている。
我々は、並んで歩きながら、ほぼ同時に、ある店舗の前で立ち止まる。
「街のスポーツ用品店」

彼と私は、同年代なのだろう。我々が子供の時代には、クリスマスが近づくと「街のスポーツ用品店」に日参したものだ。
ショーウインドウに飾られた、夢のようなバットやグローブを舐めるように見つめ。自宅に戻ると両親に、さりげなくアピールする。
「グローブは美津濃が良いよな〜」わざと聞こえるように、つぶやいたりする。

「おたくは、男の子は?」彼は私に尋ねる。
私は首を横に振って「二人とも女です」そう答える。
「そうですか。うちも女です」彼は、うなずく。

彼と私は、スポーツ用品店のショーウィンドウを、時間が止まったように見つめている。寒風の最中。

父親にとって娘達は、成長するに伴って少しずつ遠のいて行く。娘達は、母親と話す時のようには、父親と会話しない。
それは良い事だ。娘達は、女として成長しているのだ。と思う。でも、やはり寂しい。
寂しいけれど、父親は、遠巻きに娘達の成長を見守っている。
少し離れた場所から迷惑にならない程度の愛情を送っている。

グローブを見てると「男の子がいたらな〜」とか思う。
決して女の子に不満がある訳ではない。男の子がいたら、いたで、ちょっと大変だろうな〜とかも思う。
でもグローブやバットを見ると、そう思う。
我々にとって、それは(グローブやバット)は父の顔と重なるのだ。
男の子とは、そういうもので、父親とは、そういうものなのだ。

スポーツ用品店のショーウィンドウから、顔を離すと、彼と視線が合った。
彼は、少し寂しそうに微笑んだ。
多分、彼もまた「遠巻きの父」なのだろう。

そこから少し先にある交差点で、挨拶を交わし、彼と私は別々の方向に歩き出した。
彼は右に折れ、私は真っ直ぐに進んだ。
posted by sand at 18:20| Comment(6) | TrackBack(0) | 超短編小説@ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
爽やかな冬の温度と、銀杏並木の匂いを感じる素敵な文章ですね。(ギンナン臭いという意味ではありません)
うちの娘はカラダ1つでやる原始的なスポーツはまあできるんですが、球技がからきしダメです。それを夫は「小さい頃にキャッチボールとかやらなかったせいだ」と決め付けて悔やんでいます。夫は時々娘が女子であることを忘れるようです。
なんか、仕事や地域の知り合いと趣味の話ってできないですよね。ぺろっと「昔モヒカンでした」とか言っちゃうとマズイし。やはり、照れるのが定石でしょう。
Posted by ショコポチ at 2005年12月05日 00:53
どうですか〜!新しいPCの使い心地はー!!
ルンルン気分(死語)でキーボード叩いているな〜!
パンクスにルンルンは似合わねぇぞ!
いつものドンヨリした顔に戻れよ!

すいません。ついつい羨ましくて取り乱してしまいました。しかし新品はムカつくな〜。
早く壊れないかな〜(^_^;)ウソです。末長くお付き合い出来ますように。

どうも読んで頂きまして、ありがとうございました。

>ギンナン臭い

う〜ん。ギンナン入りの茶碗蒸し食べたい。
なんか、うどんの玉入れたら美味しいらしいですよ。茶碗蒸しね。

>夫は時々娘が女子であることを忘れるようです

私も、お嬢の写真を見て、一瞬忘れそうになりました。ってウソです!大変、活発で利発そうなお嬢様ですよね。
彼女は将来、スッキリした美人になりますよ。
ロリコンの私が言うんだから間違いないでしょう。

>やはり、照れるのが定石でしょう

昔モヒカンから言われても説得力まるで無し。
Posted by sand at 2005年12月05日 03:43
<遠巻きの父>
素敵に哀しいフレーズ。いいな。好きですv

わたしは母親なんで、思いはちょっと違うでしょうが、
男の子、欲しかったですね〜。
自分(の遺伝子)から生まれた異性、って神秘的な気がします。
男の子産むと厄落としになるとかもいうし(笑)
あっでもわたし、娘産んでから、冬場の乾燥肌(かゆいのよ)が治ったのよ。
生理痛もスッゴク軽くなったのよ。
かわりにこの時期、娘が乾燥肌でかゆがってます。かわいそうです。

>私は実生活で音楽の話は、まるで駄目

わたくしもです。てかもう、そのテの話はしないし、訊いてくる人もいないしなあ。
ご近所にJAZZファンの方がいるってわかっただけでも、なんか安心しませんか?
孤独が薄まるというか(笑)
お嬢さんはその後、例のコンピものを聞いておられますか?
わたしは娘が洋楽ファンになって欲しいような、欲しくないような、です。
フツーにみんなが興味を持つアイドルを好きなほうが、友達との会話に困らないしなあ。
とりあえず今は速水もこみちが好きらしいので、その路線で行って欲しいと思ってます(笑)
Posted by tallulah at 2005年12月05日 23:22
まいどです。

「Silence Is Easy」ひじょ〜に良かったです。ファーストは、そんなに好きやなかったけど、これは良いね〜。

Some Of Us、Silence Is Easy、Telling Themの3連発が強力!後半は、ちょっと甘すぎの曲もあるけど、内に向かう激しさが緊張感伴ってて良いですね〜。ファーストも聴き直すか。

駄文を読んで頂いて、ありがとうございます。

>男の子、欲しかったですね〜。

え〜ちょっと意外。でも女同士で楽しそうですよ。男から見ると、そう感じるだけかもしれんけど。

>男の子産むと厄落としになるとかもいうし

幸せそうじゃないですか〜。でも出産したら身体が丈夫になるってお母さん多いですよね。
やっぱり出産って大変な体験ですよね。男には一生分からんからね〜。
お嬢の肌は心配ですね。下の子がアトピーで、小さい頃、随分悩みました。
良い皮膚科に巡り合うと良いですね(薬が合う合わないがありますよね)

そうそう慢性蕁麻疹は、わりと落ち着いていまして良かったです。でも学校で嫌な事があると、手や唇が腫れますね。
親としては、学校の状況が把握しやすいけどね。

>孤独が薄まるというか

最近は、ネットもあるし、それほど話したいとは思わないけどね。昔は話がしたくてウズウズしてたね。
で、頭に血が上って失敗する(気持ち悪いとか思われる)ってパターンでした。

>お嬢さんはその後、例のコンピものを聞いておられますか?

結構、洋楽聴いてますね。ブリトニーとか。デスチャとか言ってます。
でも邦楽が多いかな?オレンジレンジが一番好きなんやないかな。
無理して洋楽聴く必要はないと思いますね。どっちでも良いけど、やっぱり洋楽ファンは孤独かな〜(^O^)

>速水もこみちが好き

ほう。美形好きですね。確かにカッコ良い。
ウチの子は、赤西から亀梨に乗り換えたようです。
赤西君は確かに美形だけど、亀梨君はオジサンには、結構微妙だな〜(^O^)
Posted by sand at 2005年12月06日 15:11
ご無沙汰です。
<遠巻きの父>
しみじみ歩く冬の道。ですね。

>うどんの玉入れたら美味しいらしいですよ。茶碗蒸しね。
これは<小田巻蒸し>ですね(^^。
暖まって美味しいですよねー。

>男の子産むと厄落としになるとかもいうし
そですかー???あとから厄がやってくるような感じですよ(笑。
Posted by bow at 2005年12月10日 08:41
こんちは。お久しぶり。日記読んでますよ。
お元気そうで。相変わらず飲んでるみたいだし(^O^)

>しみじみ歩く冬の道。ですね。

そんな良いもんじゃないですが。冬の道に間違いないみたい。今日も休みだけど一人で、お留守番だし(^O^)

>これは<小田巻蒸し>ですね

え〜。名前があるんだ。後で検索してレシピ調べよう。

>あとから厄がやってくるような感じですよ

う〜〜ん。男の子って難しいのかな〜(^O^)
bowさんの所の坊ちゃん達は素直そうだから、そんな事無いと思うけど。
自分の事を思い起こすと、親は難しかっただろうな〜と思うね(私は、本当に親に対して偏屈だった)
特に結婚すると母親と反りが合わなくなったな〜。

だんだん親の気持ちが分かる歳になりました。ひどい男だったよ私は。
Posted by sand at 2005年12月10日 16:41
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