2005年12月11日

2000 Miles B(It Must Be Christmas Time)

Loose Screw.jpgChristmas33.jpg
The Pretenders / Loose Screw

僕らは結局、マクドナルドでビックマックを頬張っていた。
「侘しいディナーになったね」僕はアキコに言った。
アキコは、ホットコーヒーにミルクを垂らしていた。
「良いのよ。私とキタヤマダ君には、乾いた場所がお似合いなのよ」
「乾いた場所か。確かに居酒屋みたいな親密な空間は、居心地が悪いな」

アキコは、コーヒーを飲みながら言った。
「ねぇ。こんど映画行かない?」
「良いけど。退屈じゃない」
「かなり。退屈ね」アキコは真面目な顔で言った。

アキコはポテトを摘まんで眺めながら続けた。
「あなたは、何も分かっていないし、分かろうともしていないわ。でも、分かったふりをしている人間より僅かだけど居心地が良いの」
「微妙な差なんだ」
「そう、かなり微妙ね。例えば・・」
「ラーメン屋とか?」

「え!ラーメン屋なの?」アキコはポテトを頬張りながら言った。
「ラーメン屋じゃ無いんだ」
「ラーメン屋は気付かなかったな〜。いつか、あなたも気付いてくれるかしら?」アキコは、そう言ってコーヒーを飲みほした。

クリスマスにしては、暖かい夜だった。子供の頃から、クリスマスには、寒くて殺伐としたイメージを抱えていた。でも、その夜は、少しだけ違って暖かかった。
それが気候によるものか、アキコによるものかを知るには、僅かな魔法が必要とされた。


食事を終えて地下鉄の降り口に着いた。僕はアキコにサヨナラを言おうとした。
アキコは、その言葉を逸らすように「今日は星が綺麗ね」と夜空を見上げて言った。

僕も夜空を見上げた。クリスマスの雑踏の中でも、夜空には控えめな星の輝きが、ひっそりと貼りついていた。
上を向いたアキコの横顔を覗き見していると、このまま別れるのが惜しくなった。
アキコも別れの言葉を切り出さない。

「お酒でも飲んで帰る?」僕は試しに聞いてみた。
アキコは「良いわね」と言って微笑んだ。

1984年は、誰もが甘い夢に浸るように、ビールやワインの酔いに包まれて去っていこうといていた。
でも、僕には夢を抱く事も、酔っ払う事も、ずっと遠い世界の出来事のように思えた。
大声で歓声を上げる同年代のグループから目を背けるように、僕らは人垣に埋め尽くされた通りをすり抜けて行った。
僕はただ、ここから逃げようとしているだけなのか?
ここで笑って楽しむ事に、どれほどの価値があるのだろうか?
僕とアキコは、人の波に背を向けて静かな場所へと押し流されていくようだった。

僕らは、賑やかな通りから脇道に入り込んで、人気の無い駐車場に辿り着いていた。
手にはコンビニで買ったワンカップとイカの燻製が入った手提げ袋があった。

無人の駐車場では、澄んだ星空が良く見えた。
クリスマスの喧騒は、大きな湖を隔てた場所で催されるパーティのように、ずっと遠くから聞こえてきた。

二人で駐車場の柵にもたれてワンカップを飲んだ。
「さらに乾いた場所に来たね」僕は言った。
「乾き切ったって感じね」アキコは笑った。

「ねぇ、キタヤマダ君。なかなか楽しかったよ」
「え。何もしてないけどね」僕は笑って言った。
「そうね。あなたは何もしない人なのよ」アキコは星を眺めながら言った。

静かな場所から眺める冬の星空は、眩いほどの輝きを放っていた。
それは雄大な天空の物語を感じさせ、僕らのくすんだ魂までも浄化されてしまう。そんな気持ちが沸き起こるほどの美しさだった。
見つめていると夜空に吸い込まれてしまうような、まるで空をさ迷っているような不思議な心持になっていた。

星明りに照らされたアキコは綺麗だった。
僕は、アキコの横顔を眺めていると、心の奥底に潜む不安が、ゆっくりと薄らいで行くのを感じた。


posted by sand at 02:59| Comment(0) | 連作小説・アキコ物(2000 Miles) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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