2005年12月12日

2000 Miles C(It Must Be Christmas Time)

Saving Grace.jpg星空.jpg
The Pretenders / Saving Grace

星明りに照らされた駐車場には、うずくまるように数台の自動車が停められていた。
弱い光を浴びたそれらの車は、無機質の冷たさと重厚さを漂わせながら、そこに存在した。
それは、まるで何十年も何百年もの永きに渡って、ここで見捨てられ、次第に朽ち果てていく墓標のように感じられた。
僕とアキコのいる場所は、墓場なのかもしれない。
ここに目を向ける者など誰もいない。ここには最初から死人しかいないのだ。

でも、この場所は僕に相応しかった。
僕は、この場所が持つ疎外された気配と自身の抱える隠蔽された憂鬱を重ね合わせて、ゆるい絶望に身を浸していた。

「ねぇ。あなたは、自分がどこから来て、どこに行くのか考えた事がある?自分が何の為に生きているのか分かる?」アキコは星空から目を逸らさずに、そう聞いた。

僕はアキコの横顔を見つめながら答えた。
「それは、あるけど。答えなんて分からないよ」

アキコは、ワンカップを手の中でクルクル廻しながら話を続けた。
「私はね。生きてるのって、たった一つの大切な物を見つける為にあるんだと思うのよね。
それが見つかる人もいれば、見つからない人もいるのね。見つかった人だけが幸福とは限らないわ。
だって、それは、本当にたった一つしか無いんだから、もう、それ以上見つける事が出来ないでしょ。
それは、ある意味、終わってしまうって事かしら。

それを探し続ける生き方もあるのかもしれない。ずっと探し求めながら死んで行くのね。
安らぎも無ければ、終わりも無い。
あなたなら、どっちを選ぶ?」

「絶対、見つけたいよ。どうしても見つけたいんだ。そこに答えがあるのなら、どうしても手に入れたいんだ」僕は躊躇なく答えた。

「私も見つけたい。
でも、それが見つかってしまったら、今度は、それを失う事に不安に感じながら生きて行くのかもしれないね。
それが手からすり抜けて行くのを、ただ力なく眺めたりするのかも」
アキコは僕を見て言った。

「どうだろう。でも見つけたいよ。どこかに辿りつきたい。心から安らげる場所にね。」
僕はアキコの瞳を見つめながら、そう言った。

アキコの瞳は、冬の夜空を思わせる深遠さを湛えていた。僕は、その深遠さに、どこかで触れたような気がした。でも、どこだったかは思い出せない。
ただ、アキコの瞳の奥にある深い深い井戸が、どこかに繋がっているような気がしていた。それは多分、僕に関わりのある場所だ。

その時、辺りに大きな物音が響いた。僕らはハッと身を震わせた。
駐車場脇の茂みから妖しい二つの光が放たれているのが見えた。
目だ。
何物かの目が僕らを見つめている。

やがて、怪しい目は素早く動いて、僕らの方向に勢いよく飛び出して来た。
猫だった。
一匹の猫が、駐車場に現れたのだ。猫の姿を見とめると、僕の肩から力が抜けていった。

その猫は、薄汚れた茶色をして見るからに野良猫の風体をしている。
猫は、少しの間、僕らの様子をうかがっていたが、やがて、ゆっくりとこちらに近づいて来た。
なんだかニタニタ笑ってるような不適な面構えをしていて、僕は嫌な気持ちになった。

猫は、僕らの少し手前で立ち止まると、不意に前足を胸の前に上げ、上体を起こした。
そのまま二本足で立ちあがったのだ。
声も出ないほど驚いている僕らに向かって、猫は胸を張り腕を振って悠然と歩いてくるのだった。

猫は、僕らの前で立ち止まりハッキリした口調で言葉を発した。
「はじめまして。埼玉ネコと申します。」


posted by sand at 03:42| Comment(0) | 連作小説・アキコ物(2000 Miles) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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