2005年12月13日

2000 Miles D(It Must Be Christmas Time)

Pretenders.jpgChristmas3.jpg
The Pretenders

「はじめまして。埼玉ネコと申します。」
その猫は、うやうやしく、お辞儀した。

顔を上げた猫は、胸を大きくそらし両手を後ろで組んで、ゆったとした口調で話し始めた。
「フム。驚かれるのも無理はない。まず最初にお断りしておかなければなりません。これは夢なのです。そう、あなた方、お二人は同じ夢を見ておられる。
もちろん、何も心配する必要はございません。夢は、いつか醒めるのです。それが、どんな幸せな夢であろうとも…」埼玉ネコは、言葉を切って肩をすくめた。

彼の話は続いた。
「が、しかし。ある人は、こう言うのかもしれません。これは夢ではない。これは奇跡だ。
クリスマスの奇跡だと。フム」埼玉ネコはニタリと笑った。

確かに埼玉ネコが現れてから、耳の奥に「キーーン」と耳鳴りがしていた。急に気圧が下がったような感じだ。それに、さっきまで鳴り響いていた騒音は、まるで聞こえなくなっていた。
音のない世界に僕とアキコは佇んでいた。

「さて、私は、先程お二人の会話を拝聴させていただいておりました。<たった一つの大切な物>それをお二人は探しておられるようで。フム。実に興味深い。

何故なら、私は、あなた方にお見せ出来る<ある物>を存じ上げておるのです。
つまり私には、それを探すお手伝いが出来る。そういう事になりそうなのです。

もちろん、無理強いはいたしません。
お二人に、その気持ちがあるのでしたならば、我々が暮らす夢の国にご案内いたしましょう。
しかしながら、そこで<たった一つの大切な物>が見つかるかどうかの保証は致しかねます。
また、例えそこで、それを見つけたとしても夢から醒めた後、それを憶えていると言う保証も致しかねます。

ただ、そこには、その<鍵>が存在する。その事に間違いはございません。保証いたします。

後は、お二人の気持ち次第です。
私と一緒に夢の国を旅する気持ちがございますでしょうか?
その<鍵>を目の当たりにする覚悟がございますでしょうか?
如何ですかな? 」
埼玉ネコは、薄笑いを浮かべながら僕らに聞いた。

僕はアキコの顔を見た。アキコは首を縦に振った。僕の心も決まっていた。
「連れて行って下さい」僕は、埼玉ネコに返事をした。

「フム」埼玉ネコはニタリと笑って指をパチンと鳴らした。
古く錆び付いた自転車が、カラカラと音をたてながら、こちらに向かってきた。
その自転車には誰も乗ってはいなかった。
自転車は意志を持ったように、自力で動いているのだった。

埼玉ネコは、ヒョイと自転車の前カゴに飛び乗ってうずくまった。
「どうぞ」埼玉ネコは僕らに声をかけた。
僕は前方のサドルに乗ってハンドルを握った。アキコは後ろの荷台に乗って手を僕の腰に回した。

自転車は、ゆっくりと走り始めた。静々と脇道を抜け、繁華街へと進み出ていった。
驚いた事に、先ほどまで大勢の人々で賑わいを見せていた繁華街には、一人の人間の姿も見えなかった。
ただ、クリスマス・イルミネーションだけが無人の街に空虚な光りを放ち続けた。それは、ある意味<憎悪>とも受け取れる光景だった。不機嫌な光りの海を、僕らは心細い気持ちを抱いて通り過ぎて行った。

「クリスマスの夜は長い。まず、あなた方に私の仕事をお見せしましょう。
それを知る事も<鍵>の一つだと思って頂きたい。フム」前カゴから埼玉ネコは、僕らに声をかけた。

「心のトゲを抜く仕事です。象の心です。」


posted by sand at 00:44| Comment(0) | 連作小説・アキコ物(2000 Miles) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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