2005年12月20日

2000 Miles K(It Must Be Christmas Time)

Losing.jpg白い部屋.jpg
The Pretenders / Losing

僕らが着いた場所は、白い部屋の中だった。
四方を真っ白な壁に覆われた小さな部屋だ。
その部屋にはドアがなかった。ただ一方の壁面にだけ小さな飾り窓があった。
20cm四方くらいの窓枠にガラスがはめられている。とても人が通り抜け出来るような大きさではなかった。つまり入り口も出口も無い部屋に僕らは立っていた。
部屋には、白い椅子が2客置いてある以外は、何も置かれてはいなかった。

僕らは落ち着かない表情で室内を見回した。
埼玉ネコは、白壁に寄りかかりながら話始めた。
「ここは君達が住む1984年から20年後の世界だ。フム。2005年。そんな所だろう。
ただ、20年後の世界全部を君達に見せる訳にはいかない。それが掟。夢の国の掟だ。」埼玉ネコは肩をすくめた。

「その窓から、外を見るがいい。20年後の世界が見えるだろう」
僕らは恐る恐る、窓を覗き込んだ。
そこはどこかの駐車場だった。車が何台か並んで停まっていた。それ以外に変わった物は見つからなかった。

「真ん中の白いワゴン。二人の男女が見えるはずだ」埼玉ネコは僕らの背中に話しかけた。
僕は目を凝らして白い車を見つめた。フロントガラスの中に人が見えた。一人の男は僕なのか。確かに、そんな気がする。僕は背中に冷や汗が流れた。
横の女性は誰だろう?アキコだろうか?似ている気がする。

埼玉ネコは、壁から身体を離し腕組みして僕らの後ろを歩きながら話しつづけた。
「フム。その二人は、20年後の君達だ」
僕とアキコは驚いて見つめあった。

埼玉ネコは指をパチンと鳴らした。
「違う。それが答えではない。その車の中にいる君達二人は夫婦でも恋人でもない。君達には、それぞれ別の家庭がある。
それぞれ別々の人と結婚し、それぞれに子供に恵まれる。それぞれの夫婦仲も悪くは無い。それぞれが幸せな家庭を持っている。そこには何の問題もない。

しかし君達は、ある時再会し、また二人で時間を共にするようになる。
それは何故だ?車の中の20年後の君達にも分からない。何故、自分達がここにいるのか?何故、幸せな家庭を犠牲にする必要がある?
20年後の君達は葛藤を抱き、自身への疑念を抱く。何が自分達をそうさせる?君達は自分を責める。疑う。嫌悪する。

それでも尚、君達は遭い続ける。何故だ?何がそこにある?
ノスタルジーか?性欲か?スリルか?
それとも、そこに何かが存在するのか?見落とされてしまった大きな何かが?」

埼玉ネコは一度、言葉を切り、改めて話しを続けた。
「今夜、君達にはその鍵を探すチャンスが与えられた。それはある意味、奇跡と呼べるのかもしれない。今夜、あらゆる未来を変える事が出来るかもしれない。
今夜、君達が抱えた謎を解き明かし、その答えを手に入れる事が出来るかもしれない。
ただ、それは容易ではない。誰にでも見つけられる物ではない。

鍵を探す者よ。その者の心に流れる川を探し当て記憶の濁流を遡るべし。
その者の暗闇に光を当てよ。光は影を産み落とし、影は鍵を指し示す。


君達は自身の心の扉を開け、その洞穴に身を投げ出す。そして心の中を流れる川を探し当て、記憶を押し流す急流を遡る。そこには暗闇が待っている。君達はその暗闇に今一度光を当て、そこに身を潜める影を捜し当てるのだ。影こそが鍵となる。
どうだ?やれるか?」
埼玉ネコは聞いた。僕とアキコは同時に首を縦に振った。

埼玉ネコは僕らを白い椅子に座らせると、声を荒げた。
「さぁ目を閉じろ!心の扉を開け放て!」
僕は目を閉じた。

僕は白い部屋に一人で立っている。目の前に白い扉がある。
僕は、その扉を勢いよく開き、自身の心の川を目指して全力で駆け出した。


posted by sand at 00:58| Comment(0) | 連作小説・アキコ物(2000 Miles) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。