2005年12月23日

2000 Miles O(It Must Be Christmas Time)

Greatest Hits.jpgうえり.jpg
The Pretenders / Greatest Hits

 街の雑踏が、僕を揺り起こした。駐車場の金網にもたれて寝てしまったようだ。
足元に空になったワンカップが転がっていた。手足が凍えて冷たくなっている。背筋にゾクゾクと悪寒が走った。

横にはアキコが頭を振っている。アキコも眠っていたのだろうか。
「眠ってた?」僕はアキコに聞いた。
「うん。そうみたい」アキコは苦しそうな声で言った。

頭の芯にズキズキと痛みが走る。風邪をひいたのかもしれない。
繁華街の方向からは、相変わらずの喧騒が続いている。まだ夜は浅い。

「どうして、こんな場所で寝ちゃったのかな?」僕はそれを不思議に思った。
「私、夢を見ていたわ。」アキコは放心したように呟いた。
「夢?うん。僕も夢を見ていた」
僕は頭痛と悪寒が耐えられなくなり、その場に立ち上がった。
「どんな夢だか憶えている?」アキコは座ったまま、前を向いて尋ねた。

僕は夢の情景を思い浮かべようとする。でも、それは酷い頭痛に遮られてしまう。
「どんな夢かは憶えていない。夢を見た事は確かだけど」

「そろそろ帰ろうか。風邪をひいたみたいなんだ」僕はジーンズの埃を払い落しながら言う。
アキコは黙って散らかったゴミをコンビニの袋に集め始めた。
「君は覚えているの?どんな夢をみたのか?」僕は下を向いたアキコに尋ねる。

アキコは暫く動きを止めてから僕を見上げた。
「忘れたわ。私も」アキコは笑顔でそう答えた。

繁華街の通りは、さらに賑やかさを増したようだった。まるで、いつまでもいつまでもクリスマスの夜が続くような賑やかさだ。
一眠りした僕には心境の変化があった。それまで感じていた、この喧騒への嫌悪感が綺麗になくなっていたのだ。むしろこの喧騒が、ずっと奥深い場所にある心の嘆きを伴っているように感じられた。
それは物事が終わる時に感じる無力感に似ていた。

並んで歩いていたアキコが、不意に足を止めた。
パッと顔を輝かせて僕にこう聞いた。「聞こえるでしょ?口笛の音が?」
僕は暫く目を閉じて耳を澄ませた。「ごめん。うるさくて聞こえないよ」僕は答えた。

地下鉄の降り口に着くと僕はアキコに別れの挨拶をした。
「今日は変なクリスマスになったね」
「ん?いいよ。楽しかったよ」アキコは、あまり元気がなかった。
「風邪でも、ひいたかな?」
「ううん。大丈夫。疲れたのかな」アキコは笑った。
「じゃあ、今日はこれで。サヨナラ」
「うん。サヨナラ」

僕は地下鉄の階段を降りかけ、ある事を思い出し振り返った。
それを見て、アキコは大袈裟に驚いた。
「なに?どうしたの?」アキコは慌てていた。
「メリークリスマス」僕は言った。
「ああ。メリークリスマス」アキコは手を振った。
僕は階段を降りた。

階段の利用者は僕だけだった。僕は一人で地下に繋がる階段を降りていた。
その時、耳元に誰かの声がハッキリと聞こえた。
『あなたの、順番ですよ』
僕は階段の途中で立ち止まった。そして何かが蘇ってきた。
何か重要な『言葉』があった。僕はその『言葉』を、どこかに置いて来た。
夢だ。夢の中だ。僕は夢の中で『言葉』を失った。

僕は慌てて後を振り返った。誰もいない。
僕は星空の下で見たアキコの瞳を思い出した。その瞳はどこかに繋がっていた。
でもどこかは思い出せない。

僕は何度も頭を振った。
それは夢なんだ。夢にどれほどの力がある?
夢に人を支配するほどの力があるのか?
僕は階段を駆け下りた。

ホームには大勢の乗客が散らばっていた。今日はクリスマスの夜なのだ。
僕はホームの支柱にもたれて地上を見上げた。

すると、今まで味わった事のない孤独が襲って来た。
それは息苦しいほど強烈な欠落感だった。
まるで心から何かが引き剥がされるような痛みを感じた。身体の芯にポッカリ穴が空いて、冷たい水が満ちてくるようだった。鋭く尖った棘が、無数に突き刺さるような苦痛を伴った。
やがて暗闇が僕を支配していく。

僕は支柱に、しがみ付くようにして地上を見上げ続けた。
今、アキコは地上の、どこを歩いているのだろう?
僕とアキコは、どのくらい離れているのだろう?

僕は、深い地の底から、その距離を想っていた。


 凍てつくような寒い静かな夜
 ときどき あなたの夢をみるの
 
 2000マイルの彼方
 この雪のずっと向こう
 あなたがどこに行こうと
 いつも想っているわ
  「The Pretenders/2000 Miles」


☆終わりです〜(長過ぎ〜)
最後まで読んで頂いた方がいらっしゃたら、心からお礼を言わせてください。
ありがとうございました。

出来はともかく、とても楽しく書く事が出来ました。

では。メリークリスマスクリスマス


posted by sand at 05:22| Comment(2) | 連作小説・アキコ物(2000 Miles) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
メリークリスマス!
クリスマスイブイブに終わるなんて、素敵なプレゼントです。
毎朝毎朝ダンナと一緒に続きを読むのが楽しみでした。タイムトラベルシーンにドキドキしました。エンディングも心に残ります。
そして、やっぱり埼玉ネコはカッコイです♪

sandさんも皆様も、素敵なクリスマスをお過ごし下さいv
Posted by 志穂美 at 2005年12月23日 12:01
おお。毎度ありがとうございます。
意味無く長くなってしまった駄文、読んでいただいたなんて感無量でございます。
旦那様にも宜しくお伝えくださいませ。

今回はクライマックスをハリウッド大作映画風スペクタクル・シーンにしたかったんですが(チャールトン・ヘストン主演でね。豪華セットぶっ壊し〜みたいな)
実際はハリボテ低予算特撮風スペクトルマン・シーンになってしまいました。

志穂美さんご夫婦にとってもハッピーなクリスマスでありますように!
ありがとうございました!
Posted by sand at 2005年12月23日 16:46
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