2005年12月28日

Shooting Star(便茶会)後編

Street Hassle.jpg
Lou Reed / Street Hassle

「どうしてトイレで、お茶会を?」僕は当初から感じていた当然の疑問を恐る恐る切り出した。

僕と袴田係長は狭いトイレの中に向かい合って座っていた。座ると言うより詰め込むと言う方が適切だろうか。僕と袴田係長の膝頭はピッタリとくっ付いていたし、相手の吐く息が肌に感じられるほど顔と顔の間隔も密接していた。

袴田係長は、僕の質問には答えずに便座に向かって静々とお茶を立てている。袴田係長の仕草は、丁寧かつ繊細だと言えるのかもしれない。お茶の作法など、まったく知らないのだが。

締め切ったトイレ内には、袴田係長がカサカサとお茶を掻き混ぜる音と換気扇が小さく唸る音だけが、ひっそりと鳴り響いている。
ここは磨き上げられた光り輝くトイレだった。
便器は眩いほどの光沢を放っている。僕が住んでるアパートの洗面台より間違いなく綺麗だった。
必要ならば便器で顔を洗う事も躊躇なく出来そうだ。

袴田係長は黒いTシャツにブラックジーンズという服装で、背広姿より随分若々しかった。それに肩や胸・腕はモリモリと盛り上がり、鍛え込まれた筋肉を垣間見れた。

「どうぞ」袴田係長が差し出した茶碗を受け取り、僕はそれを飲み干した。

「私は自宅での生活の大部分をトイレの中で行っています。つまりトイレが私の自室と言う事になります」
袴田係長は、飲み終えた茶碗を便座の上に、ゆっくりと戻すと厚レンズの眼鏡を外した。眼鏡を外した顔を見るのは始めてだ。
袴田係長の目は異様なほど大きかった。まるで顔から飛び出るように爛々と輝く眼を持っていた。
その眼は、鋭さよりも醒め切った静けさを感じさせた。そして滴り落ちるような狂気も。

「君はこう考えている」袴田係長の声は、それまでとは別人のように低かった。地の底から湧きあがるような声だ。
「何故、トイレなんかで生活する?とね。何を恐れているのか?とね。それはだね。
それは、ここが出口だからだ。人は入口や内側ばかりを飾り立てる。華やかに、そして豪勢にね。でも誰も出口には見向きもしない。出て行くものには、これっぽちも見向きもしないのだ。

だが俺は違う。
俺が興味があるのは出口だけだ。糞尿と汚物にまみれた出口だけだ。
俺の望みは一つだけ。俺はこの身体から飛び出したいんだ。この愚劣で醜悪な身体から汚物にまみれて抜け落ちるんだ。
俺は俺自身を引き裂き、切り刻み、爆破する。元の俺は跡形も無くなる。俺は昔の俺を葬り去る。
俺はそれを待っている。その瞬間を待っているんだ。一瞬たりとも目を離さない。
その一瞬を身を潜めて待っている。会社の窓際に、あるいは公園のベンチに、あるいは自宅のトイレに身を潜め、その瞬間だけを待っている。他には何も興味がない。

わかるか?何を待っているのか、わかるか?俺を完全に解き放つ。それが何だか分かるか?」袴田係長は異常に興奮していた。僕は背中に冷たい汗を感じた。

「流星だよ」
袴田係長はそう言うと便器の脇から何かを引き抜いた。
それは拳銃だった。黒く鈍い光を放っている。
僕は腰が抜けるほど驚愕した。恐怖で声も出なかった。

「これは銃とは違う。これは俺の身体だ!この引き金を引けば、俺は俺の身体から飛び出す事が出来る!閃光だ!燃え上がる閃光だ!そうだ。もう分かっただろう。そう俺は流星になるんだ。
流星となり燃え盛りながら空間を切り裂いて進むのだ。誰も俺を止められない。俺は俺自身から自由になり大空を引き裂くのだ!もちろん一瞬だけな。
その一瞬だけを待っている。俺の人生は、その一瞬だけだ。どうだ。素晴らしいだろう。美しいだろう」
袴田係長は銃を振りまわしながら捲くし立てた。冷たい狂気が渦を巻いている。

「見ろ!」袴田係長は不意に天井を見上げた。
「今、星が流れた。見えるか? 」袴田係長はトイレの壁面に仕込まれた隠し扉を開けレバーを押し上げた。
便器はズルズルと後ろに後退し、その跡から地下に繋がる階段が現れわれた。
階段は暗闇の中に消えている。
袴田係長は拳銃を持って立ち上がり、僕の顔面スレスレまで自分の顔を近づけた。
「君なら、どうする?ここで指をくわえて流星が消え去るのを見送るのか?
それとも!それとも君自身が流星となり、己の身体から弾け飛ぶのか!
もちろん俺は俺自身に火をつける!燃え盛る炎に包まれて、俺は俺を後にする。
どうだ?君なら、どうする?」
袴田係長は身を翻し不気味な笑い声を発しながら、地下へ繋がる階段を駆け下りていった。

僕は恐怖と衝撃で頭が真っ白になっていた。何も考えられない。
僕は袴田係長が恐ろしくて、たまらなかった。でも。
でも、身体は逆の行動を取っている。
僕の身体はガクガクと震えながら階段に足を踏み入れようとしているのだ。
それは僕自身にも止められなかった。
まるで僕の中から何か別の生き物が抜け出ようとしているかのようだった。
僕は震える足を踏み出して階段を降りようとしている。

僕には、そこに閃光が見える。



★え〜何がなんだかサッパリわからない物になってしまいました。申し訳ありません。
やっぱり一気に書かないと筋が通らないな。それに長過ぎる。
次回は「粉雪のダダ(予定)」。今度はコンパクトにまとめたいです。年内は無理か。
posted by sand at 05:23| Comment(6) | 超短編小説A | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
行け行けGOGO! 袴田係長!! 流星係長、ふり返らないで〜。
(あたしもついて行きたい・・・。)

「ストリート・ハッスル」は、ルーので一番好きなアルバムです。三部曲もいいけど、汚らしいコーラスの「ギミー・サム・グットタイムス」もいい。そしてやっぱり「シューティング・スター」ですね。歪んだ声の、人バカにしたような歌いっぷりがなかなか素敵です。
確か、PTRさんの掲示板でのこのアルバムの話題が、sandさんとお話をした最初だったと記憶しています。

今年も沢山のお話で楽しませて頂きました。毎朝幸せでした。
ありがとうございました。
「粉雪のダダ」の「ダダ」ってウルトラ怪獣でしょうか!?
ダダイスト・sandさんの来年のご活躍も楽しみです。
よいお年をお迎え下さい。

Posted by 志穂美 at 2005年12月30日 20:27
どうもいつも読んで頂いてありがとうござます。

>(あたしもついて行きたい・・・。)

あんな異常な人について行かないで下さい(^_^;)

>「ストリート・ハッスル」は、ルーので一番好きなアルバムです

そうです。そうです。これ好きですね。作りが凝ってるのか粗いのか分からない所が良い(^_^;)
ステレオ・バイなんとかサウンドって言う割りにラフですからね。次に「ベルズ」も良いけど、こっちの方がより荒いですね。
カッコ良い!I wanna be blackとかLeave Me Aloneも良いですね。

>PTRさんの掲示板でのこのアルバムの話題が、sandさんとお話をした最初だったと記憶しています

そうでしたね。あの頃ルーファンが誰もいなかったので嬉しかったですね。今では他に、おんこちさんが増えました(^_^;)

>「粉雪のダダ」の「ダダ」ってウルトラ怪獣でしょうか!?

そうそう。タイトルしか決まってないけど(^_^;)
来年はウルトラ怪獣のカテゴリーを作りたいです!
ものすごい目標!
「番台のウー」とか「耳鼻科で会ったバルタン娘」とか「ガッツ星人に首ったけ」とか。意味不明。

では帰省します。来年も宜しくお願いします!
Posted by sand at 2005年12月31日 12:23
sandさん、新年おめでとうございます。

この袴田係長の便茶会を読んで、タイトルから思い浮かんだのは、自分の大好きなブニュエルの映画「自由の幻想」のトイレ食事会でした。
それと、金の便器が最後に出てくる、ボリス・ヴィアンの小説「心臓抜き」も、なぜか思い出しました。これも大好きな小説です。

流星と係長といえば、どうしても、しりあがり寿の「流星課長」を思い浮かべてしまいますが、sandさんの話はハード・ボイルドなほうに進んでいくのかな。
この小説から、勝手にいろんなものを思い出してしまいました続編を楽しみにしています。
Posted by ring-rie at 2006年01月03日 00:43
明けまして、おめでとうございます。
本年もヨロシク〜。
早速、更新拝見しました↓
http://www.synzembi.net/dangle/jaz_ring05n2.html
川嶋哲郎さんの京都のぎゃらりーでの演奏良さそうだな〜。一回、こんな場所で聴いてみたいですね。
じっくり。
でも膝が痺れそう(^O^)

土間で演奏って言うのは想像出来ないな〜。広い土間なのかな。お客さんは階段に座って聴いたんだろうか?とにかく面白そう。

Nils Petter Molvaerは、打ち込み系のJAZZみたいですね。マイルスのスケッチ・オブ・スペインは、モリコーネを思い出すマカロニ・ウエスタンとして聴いてました。打ち込みのトランス系にあのトランペットは想像出来ません。これも面白そう。
是非、聴きたいですね。なんて事をマイルスの「ウォーキン」聴きながら書いてます。

駄作を読んで頂いて、ありがとうございます。
これは本当に不細工な出来です。お恥ずかしい。

>ブニュエルの映画「自由の幻想」のトイレ食事会

そんなのがあるんですか!これも観てみたいな〜。

>ボリス・ヴィアンの小説「心臓抜き」

「心臓貫かれて」なら読んだような気がするけど、違うみたい。あれはハードボイルドだったし。違うか?

>しりあがり寿の「流星課長」

これはちょっと憶えてますよ。しかし蛭子さんとか、しりあがり寿さんとかカルト系が人気だな〜。
私は丸尾さんとか日野日出志さん(これは怖い!)とか読んでましたね。みんな筋肉少女帯がジャケットに使ってた。
Posted by sand at 2006年01月04日 18:17
あけましておめでとうございます。
近頃、トイレに入るたんびにHGの格好をしたルー父が静かに茶を立ててる幻影を見ます。(袴田係長ではなくて^^;)
そうそう、福井県の越前海岸沿いにあるお土産屋さんのトイレは凄いんです!女性の個室は6畳はあろうかという広さに、日本庭園作りになってます!(木も植わってるし、岩もあるし、手水鉢や猪脅しまである部屋も!カッコウや鶯の鳴き声、川のせせらぎのBGM付)
何の違和感も無く、盛大な便茶会を催す事ができるでしょう(笑)

ルーリードって浴衣似合うと思いませんか?どてらを着て湯豆腐と熱燗でちびちびやってる姿、素敵だわ〜♪アリスタ時代の作品はLPでしか持ってないので、ここ10年位聴いてません。ファン失格だなぁ(・・・ってミーハーファンを公言する事自体が間違ってるって^^;)
こんな私ですが、今年も宜しくお願いいたします。
Posted by おんこち at 2006年01月07日 00:26
まいど。おめでとさ〜〜ん。本年も、よろしく哀愁

>HGの格好をしたルー父が静かに茶を立ててる幻影を見ます

あ、そうそう。HGの元祖はルーさんかもしれんね。あんなトホホなコスチューム装着してたよね。
フォ〜!とか言いそうですね。昔のルーさん。
こりゃエエ按配です。

>福井県の越前海岸沿いにあるお土産屋さんのトイレは凄いんです!

凄いマニアックな土地(^O^)

>女性の個室は6畳はあろうかという広さに、日本庭園作りになってます!

男子トイレはジャングルでトラが歩いてるとか?
ホントかな〜?御ん歳41歳の江戸町奉行でも信じられません!

>(木も植わってるし、岩もあるし、手水鉢や猪脅しまである部屋も!カッコウや鶯の鳴き声、川のせせらぎのBGM付)

鯉は、どうでしょう?便器の中に鯉が泳いでたら家族を捨てて飛んでいきます!

>何の違和感も無く、盛大な便茶会を催す事ができるでしょう

ホントかな〜?証拠写真ないですか?

>ルーリードって浴衣似合うと思いませんか?

考えてもみなかった。

>どてらを着て湯豆腐と熱燗でちびちびやってる姿、素敵だわ〜♪

考えてみたら確かに似合いそう。丸眼鏡が湯豆腐の湯気で曇ったりね。だいたい姿勢が悪くて猫背系だから炬燵は似合いそうだね。下唇もビヨーンと、だらしなく伸ばしてぐい飲みを仰いだりね。
酔っ払うと丸眼鏡が下にずれるでしょう。そうするとカトちゃん(ドリフ)になってしまうよ。

>アリスタ時代の作品はLPでしか持ってないので、ここ10年位聴いてません。

私もLPしか持ってないけど最近音だけ聴けるようになったので同じ程度です。聴きなおすとアリスタ時代はエエでな〜「都会育ち」は未だにレコードだけです。これが一番聴きたい。

>今年も宜しくお願いいたします。

もちろん、ヨロシク〜〜!
Posted by sand at 2006年01月07日 21:08
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