2006年01月11日

潜水夫(前編)

All the Young Dudes.jpg
Mott the Hoople / All the Young Dudes

ロミ郎が僕の部屋に現れたのは、年が明け除夜の鐘が鳴り終わった頃だった。

ロミ郎はホモで変態だと噂されていたが、僕に対してそんな素振りは見せなかった。
むしろ僕は他の誰と一緒にいるより、ロミ郎といる事を好んだ。
僕もロミ郎も極端な無口で、僕らはお互いの抱える沈黙に、気を許していたからかもしれない。

その日のロミ郎は、珍しく酔っていた。片手にアーリータイムスのボトルを下げ、トロンと眠そうな目つきをしていた。
「初詣にいかないか?」ロミ郎は僕を誘った。

その年、僕は酒屋の配達のバイトをやっていた。年末は酒屋のかき入れ時でバイトは大晦日の夜まで続いた。
「寒いだろ?」僕はロミ郎に聞いた。ロミ郎は何も言わずウィスキーのボトルを目の高さまで持ち上げた。

コートを羽織って、アパートの階段を下りていると刺すような寒気が襲ってきた。
僕はロミ郎からウィスキーボトルを受け取り、ラッパ飲みで体内に流し込んだ。
胃の中にドスンと音を立てるようにアルコールが落ちて行き、真っ赤に燃え上がった。

ロミ郎も歩きながら何度か、それを流し込んだ。
らしくない。ロミ郎にしては随分荒っぽい。ロミ郎には何か忘れたい事があるのかもしれない。

大晦日の夜は、深夜でも幾分明るい感じがした。窓に明かりが灯る部屋が目立った。
行き交う車も普段より多かった。ただ歩行者は数少なく、大通りでもすれ違う人は稀だった。
ロミ郎は、僕の少し前を無言で歩いていた。僕はバイトの疲れとアルコールの酔いが回って、ヨロヨロと睡魔と闘いながら歩いていた。

大通りから折れて細い路地に入り込むと、向かうから歩いてきた4人組みの男とロミ郎は、ぶつかりそうになった。
男達も酔っていた。一人の男が声を荒げてロミ郎に詰め寄った。
ロミ郎は無言のまま、寄って来た男とにらみ合いになった。

ロミ郎はやるつもりだ。
普段のロミ郎は、そこにいても気がつかないくらい静かな男だったが時々、手がつけられないほど荒れる事があった。どんなに殴られても蛇のように絡み付いて離れなかった。それを知る者は気味悪がって、ロミ郎には近づかなかった。
僕は小心者だったが、かなり荒っぽいスポーツを長くやっていたので肉弾戦には抵抗がなかった。相手が手を出せば、ロミ郎は向かって行くだろう。
僕は覚悟を決めて拳を握り締めた。身体が熱くなってワナワナと震えた。

文句をつけた男は、大声でロミ郎を罵倒したが、ロミ郎は怯まず男をにらみ続けた。無言で。
男の連れが後ろから声をかけた。「こいつら頭がいかれてるぜ。こんなクズに構うな」連れの男は、文句をつけた男をロミ郎から引き離した。
「死ね!クソガキ!」文句をつけた男はロミ郎に捨て台詞を吐いて、そこから立ち去って行った。

ロミ郎は暗い目つきのまま、再び歩き始めた。男達の言い分は、少しも間違ってはいなかった。
その頃の僕らは、間違いなく頭がいかれていたのだから。
posted by sand at 18:09| Comment(0) | 超短編小説・ロミ郎シリーズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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