2006年01月13日

What's So Funny 'Bout

Surrender to the Rhythm.jpg
Brinsley Schwarz / Surrender to the Rhythm

「sand君よ〜。酒よ〜。酒に生きるよ〜。俺たちゃ酒に生きるんだよ〜〜ん」と、ゴローちゃんは俺に言った。
俺は長い間不倫を続けていた女の事が、女房にバレて一人っきりになっていた。

その事実に気がついた女房は、娘達を連れて実家に帰った。俺は慌てて女房の実家に駆けつけた。
女房の父親から顔が歪むほど殴られた。女房は二度と俺に会わないと告げられた。
一途な女だった。俺はそんな女房を心から愛していた。そしてまた不倫を続けた女にも心からの愛を捧げた。分け隔てなんてしなかった。
つまり俺は大馬鹿者だったって訳だ。

俺は店を処分しマンションを引き払い、日雇いの作業員になった。もちろん住み込みだ。給料の殆どを借金の返済と女房と娘達への仕送りに充てた。
俺は手を抜かず必死で働いた。擦り切れるほど働いて、俺の犯した罪までも磨り減ってしまう事を願った。

ゴローちゃんとは現場で出会った。ゴローちゃんは50歳は過ぎていると思われた。60近いのかもしれない。もっと若いのかもしれない。どってにしても小汚いオッサンに違いなかった。髪はボサボサでギトギトと脂が浮かんでいた。歯は大方抜け落ち、締まりのない口元からはヨダレが垂れていた。目は真っ赤に充血し目脂がこびり付いている。鼻水も垂れ放題。鼻穴の周りはゴワゴワだった。
つまり雑巾みたいな顔だったって訳だ。

ゴローちゃんの手や足は、酒で使い物にならない状態だった。
俺は見かねてゴローちゃんの仕事まで昼休みを潰して手伝った。満足に働けない者は、仕事なんて貰えない。
ゴローちゃんは喜んで俺を仲間に紹介し、俺はこの世界になんとか馴染む事が出来た。

仕事が終わると俺とゴローちゃんは馴染みの屋台で酒を飲んだ。酒を飲む時だけゴローちゃんは生き生きしていた。

「sand君よ〜。人生ってヤツはよ〜。難儀なんだよね〜〜。わかる〜〜?わかってるの〜〜?そこのところがね〜〜。ちょ〜とね。難しいわけよね〜」
ゴローちゃんは普段から訳が分からない事ばかり話してたけれど、飲むと益々訳が分からなくなった。もちろん俺も訳の分からない男だったって事だが。

屋台で飲んだ後、雪のちらつく港の景色を眺めていると、俺は女房や娘達の事を思い出した。
娘達が可哀想でならなかった。俺がそばにいてやれないって事より、俺みたいな男から産まれて来た事が。
「なんときゃしなきゃ。娘に一生恥ずかしい思いはさせられない。なんとか、ここから抜け出さなきゃ」俺は小声でつぶやいていた。

横を歩いていたゴローちゃんが俺の肩をポンと叩いて言った。
「sand君よ〜忘れる事だよ〜。お嬢ちゃん達の事を思えばね〜sand君が忘れちゃう事だよ〜。それが一番為になるんだよ〜。俺達はね〜生きてちゃいけない人間なんだよ〜。わかるかい〜?
sand君が捨てちゃわなければね〜お嬢ちゃん達は、どんどん不幸になるんだよ〜。わかるかい〜〜」

俺はゴローちゃんの話しを聞くと抑えていたものがド〜〜と込み上げてきた。
「ゴローちゃ〜〜ん!ヒ〜〜〜ン」俺はゴローちゃんのボサボサの脂だらけの頭に顔を突っ込んで大声を上げて泣き出した。目からドバドバ涙がこぼれた。止まらない。止まらない。

ゴローちゃんのベタベタした髪の毛は、あっという間にジットリ濡れてしまった。涙は頭から滴り落ち、ゴローちゃんの顔まで濡らしていった。

それでゴローちゃんの顔は、濡れ雑巾みたいになっちまったって訳だ。


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posted by sand at 17:36| Comment(0) | 超短編小説A | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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