The Georgia Satellites / Open All Night
深夜の配達を始めた。
2月末頃、長浜の鮮魚市場から依頼があった。午前2時までに毎日配達して欲しいと言われた。断るつもりで店主に会うと70歳近い奥さんだった。好人物で是非ともと頼み込まれた。奥さんの恥らうような笑顔を見て、納品を引き受けた。
そこはコンビニではなくショップでもストアでもなく、見るからに『売店』と呼ばれる場所だった。時代に取り残され、次第に衰退して行く売り場だった。
私はそんな売り場が好きだった。大手食品スーパーへの納品より格段に楽しい仕事だった。
鮮魚市場は意外な程良く売れたので、少し離れた場所にある中央青果市場を営業で訪ねた。店主は60過ぎのオッサンで、やはり好人物だった。少しばかり値段を叩かれたが(彼らは好人物ではあったが、お人好しではなかった。商売に向いていないのは唯一お人好しだ)気持ち良く、販売を決めてくれた。
毎朝、午前1時にパートさんがやって来る。店の作業を替わってもらい、用意して配達に出る。別府の中村大前で右折して、六本松方面に向かう。九大が移転して、この街も寂しくなった。けやき通りを通って警固に着く頃には、深夜でも賑やかになる。四つ角の屋台はいつも一杯だ。赤坂を抜け、長浜に着くと、空気が変わってくる。港の空気だ。交番前に車を止めて、市場会館に商品を運ぶ。
午前1時30分頃から、青果市場のある那珂に向かう。福岡で一番賑わう渡辺通りを通る。ここも屋台が出て人通りは多いが、大型百貨店のビルが覆い被さるように立ち並び、異様な圧迫感を感じる。日赤通りを進み、那の川で左折して百年橋を渡る。このあたりは博多の名残があって好きな場所だ。松下電器を右方向に抜けて川沿いに車を走らせる。ここは昼間でも日当たりの悪い陰気な道だ。前方から女が歩いてくるのが見える。対向車はない。一目見て、女は"あっち側"から来たことが分かる。対向車線にはみ出して、女の横をすり抜ける。ルームミラーで女の姿を確認すると、やはり姿はなかった。何故なら女は、私の横に座っていたから。
私は女の顔を見ないようにする。特に目を見てはいけない。
両手の指を開け閉めして、痺れがきていないか確認する。運転中に金縛りに遭うとかなり危険だ。向こう側に引き釣り込まれることになる。痺れがなければ、車を止めずにその場所を離れた方が良い。私はアクセルを踏み込んで、先を急ぐ。
女が何か喋った。私はそれを聞かない。聞いてはいけない。恐る恐るカーステレオに手を伸ばしてボリュームを上げる。威勢の良いアメリカンロックが大音量で流れた。車内の空気が変わってゆく。青果市場に着く頃には、隣に座っていた女の姿はなかった。
青果市場で納品を済ませると自販機でコーヒーを買い求め、シートに深々と座り一息つく。午前2時の青果市場は、夜光虫のようにリフトが動き回り、SF映画に出てくる近未来を感じさせた。
シートにもたれてコーヒーを飲んでいると、先ほど、私が聞くのを拒んだ、女の言葉が蘇ってきた。女は私の耳にではなく、どこか他の場所に語りかけたのかもしれない。
『わたしは…』女の言葉だ。『わたしは…わたしを探す者を…探している…』女はそう言った。
私は女に返すはずだった言葉を考える。でも上手い言葉は出てこない。どっちにしても私は女の問いに答えることなど出来なかった。我々は何もかも分かったような顔をして、実際は何も分かってはいない。どいつも、こいつも分かってはいない。だから答えは聞けはしないんだよ、ねぇSheila。(彼女の名は恐らくSheila)
The Georgia Satellites - Sheila



今回久しぶりに書いたので気持ち良かったです。オチはいつものようにグダグダにしました。このグダグダオチが書きたくて延々、前フリ書いているようなもんです。今後もグダグダオチ極めたいですね。頑張ります。
青果市場の幻影。唐突な金髪美女。
疾走感あるギターソロが似合うかも。
金髪美女Sheilaは実はトウモロコシの妖精で、妖艶にバーボンを勧めてくるけど飲んだらキケンとか、飲むなら乗るなとか、そういう話もいいかなーと思いました。
市場の描写がいいです。夜なのに昼間みたいな顔をして活気がある場所って、なんかヘンですよね。夜の街は違います。同じ活気でも、あちらは夜の活気だから。
うちの実家の釣道具屋も、夜の1時から3時ぐらいが一番賑やかなんですよ。だいたい港から釣り船が出るのが明け方3時〜4時ぐらいだから。真夜中なのにアウトドアな格好をしたおっさんたちが集まってウキウキしてるのを見ると、変だな〜と思いますね。たまに港まで送っていくことがあるんですが、そうすると市場のリフトがsandさんの描写そのままに、機械的に、夜光虫のように動いていて不思議な感じがします。
レス嫌いなのよね?ウヒ。どうぞお気遣いなく。
>金髪美女Sheilaは実はトウモロコシの妖精
モヤシの妖精も良いね。頼りないし。安そうだし。
>グダグダで終わりたいからそこまでは頑張る、というのが何かsandさんらしいな
いつか頑張って東京まで行ってグダグダしたいです。
>真夜中なのにアウトドアな格好をしたおっさんたちが集まってウキウキしてるのを見ると、変だ
なんと勿体無い。そんな貴重なオヤジを。俺ならいただくよ。そいつら、いただいちゃう。欲しい〜。欲しいよ〜。100円おくれ(コメントまでグダグダ)