2006年02月24日

No More Blue Horizons

China Crisis.jpg
China Crisis / The Best Songs Of..

「親がね、会社やってるんだ。金持ちなんだよ」ミヨシ先輩は小さく微笑んだ。
僕らはミヨシ先輩の部屋へと向かうエレベータの中にいた。先輩の住んでるマンションは誰が見ても高級だと分かる豪華な造りだった。
2LDKはある広々とした部屋に先輩は一人で住んでいた。

先輩の部屋の中では、そこにある何もかもが床に直に置かれていた。
あらゆる品物が、部屋のあちこちでベッタリと横倒しにされている。
ちょうど田舎の陶器市で道なりを覆い尽くすように並べられた色取り取りの陶器のようだった。
キッチンにはコップや大皿小皿、鍋やポット、ビールやワインがホームセンターのバックヤードのように直に床に置かれていた。冷蔵庫も食器棚も椅子もテーブルもなかった。

リビングではテレビやオーディオ機器が。雑誌もCDも。メイク道具も宝石も。全てが広々としたフロア全体の床に転がっていた。ソファや収納ラックはなかった。

一つの部屋は、まるごと衣装部屋になっていた。フォーマルであれカジュアルであれ、どの衣装も床に直に寝かされている。フリーマーケットの古着屋のような感じだ。
もちろんタンスは見当たらなかった。

ミヨシ先輩は衣装部屋に入るとスルスルとスーツを脱いで全裸になった。脱いだスーツは空いた場所に丁寧に寝かされた。
全裸のミヨシ先輩は、ピョンピョンと衣装の海を飛び跳ねて、何枚かの衣装を拾い上げていった。

先輩は古いトレーニングウェアの上下を素肌の上に羽織った。そのウェアの背中には「3-2 ミヨシ」と書かれた白い布が縫い付けられていた。
「それは・・」僕はミヨシ先輩の背中を見つめて思わず言葉が漏れた。
ミヨシ先輩は魅力的に微笑んだ。
「そうそう。高校の時のトレパンとトレシャツ。これ着ないと落ちつかないんだよ」
ミヨシ先輩はその場に体育座りして僕を見上げた。


ミヨシ先輩と僕は、同じデパートの社員として働いていた。
ミヨシ先輩は衣料品の担当で、食品担当の僕とはフロアも違っていた。
先輩は僕より五つか六つ年上のようだった。

僕は、よく仕事場を抜け出して非常階段の下にある喫煙スペースでタバコ吸っていた。
そこでミヨシ先輩とよく一緒になった。
ミヨシ先輩は長身でキツイ目つきをしていた。同僚の誰もが感じの悪い女だと評したが、僕にはミヨシ先輩の何もかもが魅力的に感じられた。
ミヨシ先輩はジョン・ベルーシのファンだと言った。僕はダン・エイクロイドが大好きだった。それで僕らは友達になった。


「座りなよ」体操服姿のミヨシ先輩は突っ立っていた僕に声をかけた。
僕は散らばってる品物の隙間に腰を下ろした。
ミヨシ先輩は床に置いてあったグラスに手を伸ばし、別な場所に転がっていたバーボンを拾い上げて注いだ。
ミヨシ先輩は床を四つん這いになって歩き回り、必要な物を拾い集めた。

「ポッキー食べるかい?」先輩の手にはポッキーの箱が握られていた。
僕はうなずく。
先輩は封を開けてポッキーの中身を取り出すと一本一本床の上に並べて行く。
僕はバーボンを舐めながら、その作業を眺めている。

「ピッタリと貼り付いてなきゃ信じられないんだ」ミヨシ先輩は不意に話し始めた。
僕は黙って話しを聞く。

「人間ってさ。どれだけ膨らんでるかがステイタスなんだよ。いろんな物がイッパイ詰まってるだよって姿を見せびらかしたいんだね。どいつもこいつもブテブテに膨らんだ豚ばっかりなんだよ。」
先輩は床の上のポッキーを一本口にくわえた。

「あんまり膨らんじゃってるから、誰と接してもシックリ・ピッタリなんて無理なんだ。ほら、身動き取れなくなってるヤツ。よく見かけるよな?言ってる事わかる?」
先輩は僕に聞く。

「わかりますよ。でもね。誰とでも貼りつこうとは思いませんよ。僕はね」

「そりゃそうだよ。嫌なヤツとか触れたくもないね。私もさ。でもね。私はさ。やっぱり誰かとピッタリと貼りつきたいんだよ。もう全然動けませ〜んってくらいにね」先輩はハハハと笑う。

「誰も入ってこれないくらいピッタリ貼りつくんだ。隙間なんて許せないんだ。そんなの必要じゃないんだ」
ミヨシ先輩は、そう言って立ち上がりリビングの明かりを消す。それから、もう一度、体操服を脱ぎ捨て全裸になって床に横たわった。

「なあ。私をペチャンコに押し潰してくれないか?」先輩は床に寝たまま僕に言う。

僕は立ち上がり服を脱ぎ捨てる。素っ裸で先輩の上に覆い被さる。
僕らは2枚の下敷きのようにピッタリと重なり合う。先輩の柔らかい肌が、僕の身体を満たして行く。

「どうだい?どんな感じだい?」先輩は僕の耳元でささやく。

「先輩って水平ですよ。どこまでも水平ですよ」僕は答える。

ミヨシ先輩は嬉しそうにクククと笑う。「そうかい。そうかい。私しゃ水平線になったのかい」

僕は先輩の唇に舌をはわし、水平線をかき回す。
posted by sand at 21:53| Comment(0) | 超短編小説A | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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