2006年03月01日

定食屋都市(テキサス帰りの沢田雅美)

さboら.jpg
     『マーシー』

この世に生を受けて40数年。私は定食屋都市に生きてきた。
世の中は定食屋の周りをグルグル廻っているに過ぎない。少なくとも定食屋都市に生きる者にとっては・・。

定食屋都市における”法”とは?
あなたは私に聞くかもしれない。聞かないかもしれない。
どっちにしても答えは一つだ。いいかい。
定食屋都市における”法”とは・・『マーシー』(沢田雅美)をおいて他にはない。

『マーシー』は、テキサスからやって来た。
あれは厳しい冬が終わりを告げ、春の気配が感じられる頃だった。

『マーシー』はスーツケースを一つ下げて駅のターミナルに降り立った。
彼女は足早に駅を後にする。彼女は自分が何者で、どこに行く必要があるのかが最初から分かっていた。
『マーシー』は定食屋都市に向かったのだ。そう、そこが彼女の生きる場所だった。

『マーシー』はタック(角野卓造)の店の扉を叩いた。タックの店は定食屋都市でも評判の店だった。
タックは準備中の札が下げられた扉を開けた。
「悪いね。準備中なんだ」タックは扉の隙間から『マーシー』に告げた。

『マーシー』は扉の隙間に顔を突っ込んで叫んだ。
「はーい!あなたに必要な物を私は持ってるわ。考える必要なんて何もないのよ。私はあなたをラッキーでハッピー(幸楽)に出来るのよ。いい?分かるわよね」

突然の事にタックは戸惑った。そして首を振りながら笑った。
「確かに、あんたには運がある。それは間違いなさそうだ。昨日勤めていた女の子が辞めたんだ」

『マーシー』はケラケラ笑いながら扉の奥にスーツケースを放り投げた。
タックはスーツケースを抱えながら聞いた。「名前を教えてくれないか?あんたの名前だ」

「私はマーシー。死ぬまで忘れさせないわ」彼女は胸を張って答えた。

その日から『マーシー』は定食屋都市の住人になった。もちろん異議のある者など誰もいない。
なにしろ『マーシー』は飛び切りの良い女だったからだ。
我々は『マーシー』の大きくてキラキラ輝く瞳に夢中だった。
朝も昼も夜も、我々はタックの店で食事を取った。

『マーシー』は、いつも堂々とした態度で我々に接した。時には激しく怒鳴りつける事もあった。
それでもタックの店に客足が途絶える事はなかった。怒った『マーシー』もまた素敵だったからだ。

店に二人組みの若い男が訪れた事がある。どう見ても、この都市の住人ではない。
若い男達は扉を足で開け、ゲラゲラ笑いながら店に入ってきた。
足をテーブルに放り出し、吸いかけのタバコを床に放り投げた。

『マーシー』は火のついたタバコを拾い上げると若い男達の前に、ゆっくりと立ちはだかった。
ニタリと笑った後、手に持った銀色のトレーで、一人の男の頭を、思いっきり引っ叩いた。男は椅子から転げ落ちて床の上をゴロゴロと転がった。
『マーシー』は、もう一人の男の胸倉を掴むと床から拾い上げた火のついたタバコを、男の鼻の穴に突き刺した。男は悲鳴を上げながら飛び上がった。

『マーシー』は、二人の男達の尻を蹴り上げながら怒鳴りつけた。
「ふぁっきん、あ〜すほ〜る!げら〜う、ひや〜〜!!な〜〜う!!」
男達は、ヒ〜ヒ〜泣き喚きながら逃げて行った。

我々は、その光景を惚れ惚れしながら見守って、肩をすくめあった。

『マーシー』は、どんな男よりもタフだった。どんな男にも怯む事がなかった。
そんな『マーシー』が一度だけ涙を見せた夜があった。

その日、私は閉店間際まで飲んでいた。タックと私と『マーシー』。3人だけが残った。
タックは一通の手紙を『マーシー』に手渡した。お昼に届いていたが渡し忘れていたと言った。

『マーシー』は手紙を途中まで読むと、テーブルに突っ伏して泣き始めた。
タックと私は驚いて『マーシー』のそばに駆けつけた。
『マーシー』は何も話さず泣くばかりだった。タックは『マーシー』の手から手紙を引き抜き、走り読みした。
「彼女のママ(野村昭子)が死んだんだ」タックは首を振りながら告げた。

私とタックは、朝が来るまで『マーシー』のそばにいた。彼女の涙が枯れるのを待ち続けた。

『マーシー』は今でも、この定食屋都市にいる。
彼女が、この都市を決めて行く。彼女が”法”なんだ。血の通った”法”なんだ。

タック.jpg
 『タック』

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 『ママ』

Nighthawks At The Diner.jpg
推奨BGM : Tom Waits / Nighthawks at the Diner
posted by sand at 18:29| Comment(2) | コラム・有名人 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
むちゃくちゃ面白かったです。
そうか。トム・ウエイツの世界には、沢田雅美と角野卓造と野村昭子が住んでいるのか。
いままで、もひとつ掴みきれなかった世界が、霧が晴れたように私に微笑みかけています。
ありがとうございます。
Posted by ショコポチ at 2006年03月01日 23:15
どうも読んで頂いてありがとうございます。
お褒めの言葉まで頂いて恐縮しています。

>霧が晴れたように私に微笑みかけています

ウソ臭(^O^)

本日は実家に戻ってお片付けします〜。
Posted by sand at 2006年03月02日 12:21
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