2006年06月02日

Uninspiredなる場所から

Shoot Out at the Fantasy Factory.jpg
Traffic / Shoot Out at the Fantasy Factory

 向かいの家の庭に『てっせん』の花が咲いているのが見えた。

らっへん.jpg

 その日は休日で、新しく越してきた借家の縁側に、私は腰掛けていた。まだ昼前の真新しい陽射しに包まれながら、隣家の庭先に咲き誇る『てっせん』の凛々しい佇まいに目を奪われていた。

 足元には水を入れたアルミのバケツに缶ビールが5〜6本沈んでいる。冷凍庫からブチ込んだ、ありったけの氷も一緒だった。

ぼーる.jpg

ホカホカした日向に身体を投げ出して、冷えたビールを流し込む。キューっと喉が鳴って胃の中にピチピチした刺激が舞い踊った。アルコールの熱気が身体の隅々にまで染み渡った。

 ツマミに台所から『イリコ』の入った袋を持ち出していた。濡れた缶ビールを口に運びながら、時々『イリコ』を放り込んだ。途端に海の香りが口内に広がった。

いろこ.jpg

 2本目のビールを開け『イリコ』の入った袋に手を伸ばした時、モサモサした毛に手が触れた。
私は驚いて、飛び上がった。

 見るとアライグマ男が『イリコ』の袋に手を突っ込んでいる。身体を室内の畳の上に寝転がらせ、手だけを縁側に伸ばしていた。
「いつ、入ってきたんだよ! しかも、いきなりリラックスかよ! 」

 アライグマ男は、私の言葉を気に留める事もなく、黙々と『イリコ』を頬張っている。

「何しに来たんだよ? 」

 私の問いにアライグマ男は何枚かのCDを差し出した。
『The Low Spark of High Heeled Boys』『John Barleycorn Must Die』『Shoot Out at the Fantasy Factory』『When the Eagle Flies』・・・。
所謂、後期と呼ばれるTraffic(Stevie Winwoodが在籍)のアルバムだった。

「そうか。Jim Capaldiが亡くなったんだったな・・・。今日は、Trafficのアルバムを聴くか。一日中。」

 お昼の穏やかな陽射し・キリッとした『てっせん』の花・冷えた缶ビール・磯の香る『イリコ』。それらにTrafficの音楽が加わった。

 午後3時を回った頃には、Trafficの3枚のアルバムを聴き終えていた。濡れ縁には、空き缶が5本転がっていた。『イリコ』の入った袋も空になってしまった。午後の空はドンヨリと曇り始め、畳の上のアライグマ男も深い眠りに落ちてしまっていた。
 ただ、『てっせん』の青い花だけが、いつまでも張り詰めたように、そこにあった。

 今日は何もしないで、このまま終わってしまうだろう。

 私は、最後のビールを飲みながら、そう思った。
確かに何もしない一日だった。だが私の身体には充実感が溢れている。空虚で取り留めのない一日に無上の喜びを感じる。

 結局、私はこれまで生きて来て、何も残せなかった。それは明日も明後日も、この先ずっと同じ事だろう。

 私は求める物を全て、この手にしたかった。どんな夢も叶える必要がある。
でも、それらが全部、手元に残る必要などないのだ。それらが全て、この手の中から零れ落ちたとしても、それはそれで仕方のない事だった。

 私は高く高く手を伸ばし、それに触れるだけで良いと思っている。
気高く美しい、青い花びらに少しだけ触れて、身体が真っ青に染まって行くのを感じるだけで良かった。

 かってJim Capaldiは『(Sometimes I Feel So) Uninspired』なる詩を書いた。
彼が実際、何を表現したかったのかは、私には分からない。
 ただ、その曲に宿る空虚なまどろみを身近に感じられるようになった。

 歳を取れば取るほど、ハッキリと手に取るように感じる。



☆なにか中途半端に終わりました。あらら。最近、忙しいのでボチボチの更新です。たまに覗いて頂けると有りがたいです。次は頑張ります。ダメかもしれんけど。
この記事へのコメント
こんばんは!
ロウ・スパークのあの不評なアルバムが好きです。そして、このsandさんの記事のように・・・
やりかけで、ほうりなげたようななげやりなところが、無性に好きです。(あのジャケからして、途中半端です!)
うまいですね!
ちょっと、TBさせてね!
Posted by evergreen at 2006年06月03日 00:09
ごめんなさい、TB無かった・・・(爆)
そそっかしいな〜
お忙しいようなので、こっちはいいですからね!
Posted by evergreen at 2006年06月03日 00:13
こんちは。
読んで頂いて、ありがとうございます。
TBは、エロトラバが多いので外してたんですよ。
今、開けました。いつかTBして下さいませ。
よろしく、お願い致します〜。

『The Low Spark of High Heeled Boys』は好きですよ。その筋には不評みたいですが、かなり大好き。大らかなウネリありますよね。『When the Eagle Flies』も好きだし、Trafficほんまに好きなんですわ。
Posted by sand at 2006年06月03日 03:49
ジムキャパルディも死んだんですか・・なんか知っている人が亡くなっていくのは寂しいです。後期はとりとめもない感じがするのでとりとめもない気分の時にぴったりなきがします。さあ!聴くぞ!!というのは似合わない。
Posted by ITORU at 2006年06月03日 09:09
そうなんですよ〜。ゴツイ顔してたから死にそうにないと思ってたんだけど。
癌だったみたいですね。

そうそう。後期はユッタリ聴くのが似合いますね。
一方、初期は、かなり力入りますから熱い作品です。

どの時期のTrafficも好きだな〜。寄せ集めの「ラスト・イグジット」でさえ良い曲が多いからな〜。

そうそう、ヤフーブログはコメント反映しない時がありますよね。
Posted by sand at 2006年06月03日 15:36
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気高く、気だるい TRAFFIC ”ザ・ロウ・スパーク・オブ・ハイ・ヒールド・ボーイズ”
Excerpt: Low Spark of High Heeled Boys1971年 このジャケットが好きです!!!![:ハート:] 6角形で有名ですが、 黒と白の格子、 雲がうっすらふんわり連なる薄..
Weblog: Iron Rosary
Tracked: 2006-06-07 21:54
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