2006年06月07日

美しきもの

Diamond Dogs.jpg
David Bowie / Diamond Dogs

 ロミ郎は、相変わらずホモで変態だった。周囲の者達は、口々にロミ郎を罵倒し蔑んだ。でも、より罵倒され蔑まれるのは、この僕だ。
 僕はロミ郎を狂おしいほど愛していたからだ。

 その事実を僕は受け入れなければならなかった。
僕はロミ郎に恋をしている。それは、どうあがいても動かしようの無いものだった。僕は1日のほぼ全ての時間をロミ郎の幻影に苦しめられながら過ごした。
 ゾッとするほど冷たい瞳。細く白い指先。青白く光る美しいウナジ。薄くスベスベとした胸板。
 ロミ郎の身体に宿る途方も無い輝きに、僕の生活は全て支配されていた。僕は日に何千回もの溜息と共にこの苦痛が和らぐ時刻を待った。虚ろな朝に、怠惰な午後に、眠れぬ夜に、ロミ郎の幻影は深く深く僕の心に爪を立てた。
 僕の心から流れ出す夥しい血は、その痛みに比して、一片の救済さえも、もたらさなかった。ロミ郎の幻影は後から後から押し寄せてきて、一瞬の休息さえも与えなかったからだ。
 僕はロミ郎を愛している。良いだろう。それが真実だ。そこから始めよう。そこから出口を探し出さなければならない。

 真実を受け入れた僕には、次なる苦悩が待ち受けていた。
僕はロミ郎を愛している。だが、僕は男を愛するつもりは無いと言う事だ。
それを受け入れる事を頑なに拒んだ。

 それは違う。それは別の問題だ。僕はロミ郎が好きなだけで、男が好きな訳ではない。ロミ郎は男でも女でもない、別のものなんだ。
もっと普遍的で永遠を感じさせるものに思えた。ロミ郎は、ただ美しいだけの存在なんだ。性別を飛び越えた『美しきもの』であるはずだ。そうでなければならなかった。そうでなければ、僕は破滅しそうだった。崩れ落ちてしまいそうだった。

 その苦悩が始まった頃から、僕はロミ郎の部屋を訪れる事はなくなっていた。それはロミ郎も同じだった。彼の方から僕の部屋に訪ねて来る事もなくなった。
ロミ郎は多分、僕の気持ちに気がついている。
 いや。
これはロミ郎が仕組んだ罠だったのかもしれない。ロミ郎は最初から僕を陥れようと企んでいたんだ。最初からそれが分かっていたんだ。
 僕を、彼の巣へと手繰り寄せ、僕の手首を噛み切って流れ出す血を吸い尽くそうとしているのだ。色素の抜けた薄い黒眼で、僕を冷たく見つめながら。
 ロミ郎は、そんな生き物だ。ロミ郎は、そんな動物なんだ。

 週に何度かロミ郎と一緒に大学の講義を受けた。
ロミ郎は、僕の頭を狂わせる、どの幻影よりも美しかった。僕は焦げるような激しい胸の痛みに身体を小刻みに震わせながらロミ郎の横に座っていた。

 なぜ、それほどまでに美しい?僕はロミ郎の長く美麗な睫毛を凝視しながら、その問いを何度も何度も繰り返していた。僕は狂ってしまうのだろうか?
 僕は自身の心に、深い深い裂け目の存在を感じていた。そこからロミ郎が僕を呼んでいる。その深遠な谷底からロミ郎が僕の名を呼んでいる。
 僕は足がすくみ身体の震えが止まらない。でも、ジリジリと裂け目に近づいて行こうとしている。僕は怖かった。僕はロミ郎を恐れていた。それでも僕はその恐れに魅せられていたのだ。


 永沢と名乗る男に会ったのは、ロミ郎と同じ講義を受けた帰り道の事だった。

 僕は、溜息をつきながら虚ろな顔で道を歩いていた。
「ロミ郎の友達ですよね?」見知らぬ男が僕に声をかけてきた。
歳は40歳手前だろうか、長いウェーブのかかった髪をして、薄く髭を伸ばしている。服装はラフだがシックに纏められていた。なにより際立っていたのは、男は人目を引くほどのハンサムな顔立ちをしていた事だ。それほどまでに整った顔を持ちながら、男からは活力と言うものが感じられなかった。男は魂の抜け殻のように途方に暮れて、そこに立っていた。

 男は僕を近くの喫茶店へと誘った。おかしな事に、僕は男に対して警戒心を全く抱かなかった。その男に同じような匂いを嗅ぎ分けていたのかもしれない。僕と同じ匂いを。

 テーブルに付くと男は、永沢と名乗った。
「今は飲食関係の仕事をしています」永沢は僕に向かって一方的に語り始めた。
「夜の仕事です。これでも以前は、高校の教師をしていましてね。ロミ郎は私の教え子でした。私はロミ郎に、ありとあらゆる事を教えました。一目でロミ郎が何物なのかが分かったからです。

 ロミ郎は私が育て上げました。ロミ郎を獣に育て上げたのは、私なのです」


 永沢に会った夜。僕は夢を見た。
夢の中の僕は、砂漠を走っていた。見渡す限りの砂漠だ。果てしなく砂の文様が続いている。
 彼方から猛烈な砂嵐が迫って来るのが分かる。僕は必死で生き延びようと走り続ける。

 砂の中から黄金の手が現れて、僕の足首をシッカリと捕まえる。僕は、砂漠に身を投げ出して倒れこむ。
黄金に光り輝く身体をした男が砂の中から現れる。ロミ郎だった。
 ロミ郎の口の部分だけは『犬の口』に変わっている。長く真っ赤な舌を伸ばし、鋭い牙を剥き出している。
 犬の口をしたロミ郎は僕の身体を抱き寄せる。僕はロミ郎に身体を預ける。
僕は、その時、その事に気がつく。

 ロミ郎は僕の唇を奪い。僕の口内に舌を這わす。やがてロミ郎は僕の舌を噛み千切り、僕の口から流れ出す血を吸い尽くす。
 僕は満ち足りる。それが僕の望みだった。僕は透明になり、やがて『美しきもの』へと変容して行くのを感じる

 砂嵐が目前まで迫ってきて、今にも僕らを飲み込もうとしている。
でも、僕は恐れる事など何も無い。僕は、もうそれに気がついている。
気がついてしまったのだ。もう後には戻れない。

 この一瞬こそが、永遠だと言う事に



☆ロミ郎シリーズはカテゴリ化しました。変ですね。急いで書いたので、明日読みなおして訂正します。
posted by sand at 19:06| Comment(7) | TrackBack(0) | 超短編小説・ロミ郎シリーズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんは!
このロミ郎シリーズが、すみません、一番
好きです。
実は、この主人公の精神構造が、
ひとごとではなく・・・
わたしね・・・
女性なんだけど、・・・
夢の中では、好きな人の前では、
男に変身しちゃうの!
ずっと前からそうなんです・・・
sandさん・・・
こんな風に私がコメントしたら、
信じる?今度、私の体験、自分のところで
やるね!
Posted by evergreen at 2006年06月07日 21:52
新着からきましたーっ!風邪はやってますねーお気をつけて!
Posted by ゆん at 2006年06月08日 12:36
evergreenさん

こんちは。読んでいただいて有難う御座います。好きになって頂いて嬉しいで〜す。

>夢の中では、好きな人の前では、男に変身しちゃうの!

う〜〜〜ん。これは難問。男になるって、どういう事だろう?男友達になっちゃうって事かな?
ん〜女に変身して、好きな女の女友達になった夢なんか見た事も無いよ。ってか考えた事すらない。

>こんな風に私がコメントしたら、信じる?

信じるも信じないも、あなた、やっぱり変わってるわ(^O^)

>今度、私の体験、自分のところでやるね!

こりゃ是非お願いします。怖いもの見たさ(^O^)
Posted by sand at 2006年06月08日 16:18
おひさしぶりです。

ロミ郎新作を読み、志穂美さんご主人のサイトを見てきました。何度も行かせて頂いてますが、ひさびさにお話をじっくり読みました。
あ、そっちにもコメントしようと思いましたが、みんなのコメント読むだけで面白くって満足してしまいました。

それにしても、ロミ郎に会いたいですねえ。
私の中では、清志郎を思い切りカッコよくした感じなんですよ。
あ、全然違う?
だったらスミマセン。
妄想癖が強いもんで、勝手な空想をしております。
どうも胸板の薄い男性に弱いのかも知れません。
もっとアホなことを口走りそうなので、このへんで失礼します〜。
Posted by ring-rie at 2006年06月10日 02:22
どうも久しぶりです。忙しそうですね。
ジャケット・アート・コレクション読みましたよ。
http://synzembi.net/dangle/jac06_01.html

Don Friedman Trio/Circle Waltzは良いジャケですね。ちょっとZAPPA先生のバーント・ウィニー・サンドイッチを思わせますが、こちらはグッとセピア色の哀愁漂う世界ですね。これは好きです。
ヘッズの「裸」は、持ってるけど、そんな台詞が書いてあったんですね。ちょと発見。面白かったです。「嵐の使者/ディープ・パープル」がカッコ良かった事も再発見。
次回も期待しています。

>志穂美さんご主人のサイトを見てきました。

先生の「いちごぽっくり物語」は良いですね。
第18話の「くるくる回るひまわりは〜♪」の童謡にKOされました。こりゃ凄い。

>私の中では、清志郎を思い切りカッコよくした感じなんですよ。

『思い切りカッコよく』で相当近づいて来ました(^_^;)
ロミ郎のモデルは、横溝正史先生の『真珠郎』です↓
http://www.m-net.ne.jp/~h-ochi/Critique/Yokomizo/Sinju.html

物語としては『本陣殺人事件』『獄門島』『鬼火』などの傑作には遠く及びませんが、このキャラが大好きでしてね。何度も何度も繰り返し読みました。

>どうも胸板の薄い男性に弱いのかも知れません。

貧相マニアでしたね。ここでも幸せは意外と遠回りでした。

では読んで頂いてありがとうございます。お身体壊されないように。
Posted by sand at 2006年06月10日 04:53
おお、ロミ郎は「真珠郎」でしたか! 何と、びっくり嬉しいです!
私は横溝や夢野久作のマイナーな短編が大好きなんです。とくに、真珠の用に美しい(笑)真珠郎の話は印象深かったです。今住んでる家には、私が嫁いで来たときからあった誰のものとも知れぬ「真珠郎」タイトルの単行本があるので、読み返しちゃお!

ring-rieさん、ありがとうございますv
Posted by 志穂美 at 2006年06月11日 06:48
おお。やはりご存知でしたか。さすがです♪

夢野先生の短編も、もちろん好きです。でも乱歩先生や夢野先生はやはり天才だから豪快なんですよね。
で、横溝先生は、もう少し普通の感覚と言いましょうか。天才なんでしょうが、ずっと、こちら側の人だと。
先生の短編は、慎ましい耽美さを感じて、大好きです。
『真珠郎』は冒頭のゾクゾクする描写。これが凄い。真珠郎の首筋に光る冷たそうな汗。良いな〜。僕も読み返そう(^O^)
Posted by sand at 2006年06月12日 17:33
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