2006年06月25日

All Alone

GOOD DREAMS.jpg
The Roosterz / Good Dreams

「どう?」私は聞く。
「ふむ?」アライグマ男は人差し指をペロンと舐めて、空に向かって突き上げる。

 梅雨の狭間に綺麗な青空がのぞく日だった。
「ふん」アライグマ男は何度か首を縦に振った。
OK、決行だ。私は車に飛び乗りホームセンターを目指す。
隣に座ったアライグマ男が鼻歌を歌う。どこかで聞いた曲だが思い出せない。
アライグマ男に曲名を聞いても教えてはくれないだろう。こいつは、そんな男だ。
だから、この男と一緒にいる。

 ホームセンターで障子紙のロールを数本買い込む。
新しく越してきた家には、随分、色が黄ばんだ障子が置かれていた。穴の数も限りない。
前の家を借りた時も、そんな状態だった。その家の障子を張り替えた時、アライグマ男からアドバイスを貰った(どうして彼が障子張替えの薀蓄に、それほどまでに長けているのかは謎)。
 だが、その手順をスッカリ忘れてしまっていた。なにか途方も無く複雑な工程があったような気がしていた。

 自宅に戻ると、古い障子紙の糊付けされた部分に水を含ませて剥ぎ取る事をアライグマ男から指示された。
彼は、それだけ伝えるとフラフラと窓際に腰を下ろし、窓の外に視線を移した。
「あ、手伝ってくれるんじゃないの?」私は窓際のアライグマ男に問いかける。
彼は答える。
「それは自分一人でやるものですよ。あなたは、ずっと、そうして来た。でも、すぐにそれを忘れてしまう。まぁ、もうじき分かりますよ」

 私は一人で古い障子紙を剥ぎ取って行く。紙を剥ぎ取られ骨だけになった障子枠が積み上げられる。
 すると何故だが不安な気持ちが募って行く。結局、そこには何も無かったんだ。ただの空洞だったんだ。

 枠に付いた紙屑を丁寧に拭き落として行く。
そういえば障子を張り出してから、異様なほどの静けさに包まれている気がしてきた。さっきまでの雑音はどこに消えたのだろう。痛いくらいの静寂が身体に突き刺さる。
耳の奥から音が響いてくる。車の中でアライグマ男が歌っていた鼻歌のようだ。私の身体の奥にこの歌は眠っていたんだろうか?なんて歌だっけ?いつ頃聞いた歌だっけ?私は心の迷宮をさ迷い歩く。過去か?現在か?それとも、これから聞かれる曲だろうか?

 いつの間にかアライグマ男がガラスの容器に入った『みつまめ』を運んで来ていた。

まつめろ.jpg

そう言えば、今は何時なんだろう?
私とアライグマ男は黙って『みつまめ』を口に運ぶ。冷たくて、ほんのりと甘い。私は言うべき言葉を思い浮かべる。だが何も浮かび上がらない。言葉は心の奥深くに沈んだままだ。静寂が身体に重く圧し掛かる。
 私は無防備さに怯えている事に気がつく。
それは、骨だけになり空洞を抱えた障子に関わりが有るのかもしれない。

 私は慌てふためいて障子紙を張り巡らす。一枚また一枚。次々に白い紙を貼って行く。続々と空洞が、覆い尽くされて行く。塞ぎ込まれて行く。隔たりを生み出して行く。

 全ての障子紙を貼り終えた時、私は一人になっている事に気がつく。アライグマ男の姿は、いつの間にか消えてしまっていた。
 私は真新しい障子紙に、たった一人で取り囲まれている。

さいず.jpg

私は障子紙によって外の世界から切り離され隔てられている。
 自分一人の手で張り巡らした障子紙にだ。

 そうやって来たんだ。ずっと、そうやって生きてきたんだ。
でも、それを忘れてしまう。
そうやって長い年月の末に、ようやく開けた外界との穴を自分の手で塞いでしまうのだ。
どんなに、その意味を学んでも、すぐに忘れてしまう。
 また、孤独に戻ってしまう。

 そんな薄い膜によって隔てられた、無数の個室の寄り集りこそが社会なのだろうか?
私と貴方の孤独は、実の所、寸分の違いさえも無いのであろうか?
この世は等しい孤独によって形作られているのだろうか?

 そして私はその歌のタイトルを思い出す。


☆みなさん忙しそうなので(私も)コメント等は気にしないで下さいませ(元々そんなに多くないけど)お互い無理の無い所で。
この記事へのコメント
 障子紙か・・。うちは上二人は破らなかったけど、一番下の奴が破りました。障子紙の担当はもっぱらうちんとです、自分はすぐかんしゃくまわしたり、集中力が切れたりするからできません。細かい作業の多い小学校勤務とは思えないほどの雑な自分です。
Posted by ITORU at 2006年06月25日 20:24
まいどです。昨日、障子紙張り替えましてね。それで書いてみました。襖の紙も張り替えました。
どっちかと言うと襖の方が簡単。
障子は霧吹きを忘れた。残念。張りが無いね。これは要チェックです。

障子紙は確かにイライラしますね。でも出来あがると妙に心が洗われます。誰も誉めてくれないけど。
Posted by sand at 2006年06月26日 14:39
いつもながら胸に沁み入るお話、ありがとうございます。
最近のアライグマ男シリーズは、エンディングでまたグッときます。

障子紙貼り・・・大昔年末大掃除で母がやっていたのを思い出します。子供の私は破る専門係でした。取っ手が取れたボコボコの小鍋に入っていた自家製の「糊」を思い出すと、なぜか泣きそうになります。
Posted by 志穂美 at 2006年06月27日 06:04
このアルバムはあまりに名曲揃いなんで、かえってラストのこの曲を忘れていました。本当に、どんな曲だったのか思い出せなかったんですよ。それで、今朝、古いテープを取り出して聴いてみました。
こんなにきれいで悲しい曲を、久々に聴いたと思いました。
どうして当時は、何も感じなかったんだろう?「ジャックスに似てるな」とか思っておしまいだったのだろうか?この地味な曲がこの名作アルバムの最後に入っていることに、何の意味も感じなかったのかな?若い女って馬鹿だな。
とかいろいろ思いました。
ところで大江さん、ソロで復活してたんですね。しかもバックがルースターズのオリジナルメンバーで。聴いてみたいけど、高いな〜。
Posted by ショコポチ at 2006年06月27日 11:35
志穂美さん

どうもいつも読んでいただいて有難う御座います。
そのうち童話っぽくしようかな〜とか思いますけど、どうなるんでしょう?
「コイル」というお話しを考えていますが、モチーフは、この前見た志穂美さん出演の夢です。エッチっぽくなるので覚悟しておいて下さい。怒られたりして(^O^)
その前に「痛みの国から」っていうのを書く予定です。

>子供の私は破る専門係でした。取っ手が取れたボコボコの小鍋に入っていた自家製の「糊」を思い出すと、なぜか泣きそうになります。

おお〜そうです。そうです。そんな小鍋うちにもありましたよ。ばあちゃんが糊作ってたな〜確かに泣きそう(^O^)

ショコポチさん

お疲れの所、かたじけない。

>こんなにきれいで悲しい曲を、久々に聴いたと思いました。

この曲は博多出身の伝説のロックバンド「サンハウス」の曲のカバーです。
作詞が柴山俊之氏。作曲が鮎川誠氏です。
これは泥臭くて博多の町外れっぽいんですよ。
良い曲ですよね〜。さっきまで柴山さんのオフィシャルサイトを見てたら面白くて1時間くらい読んでました。博多の人なんだな〜。

>若い女って馬鹿だな。

可愛い子は、たいがい馬鹿でした。

>大江さん、ソロで復活してたんですね。しかもバックがルースターズのオリジナルメンバーで。

あ、そうそう。ライブとかやってるみたいですね。いつかレンタル探してみます(買えよ)
Posted by sand at 2006年06月27日 18:12
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