2011年05月01日

I Am A Child

Last Time Around.jpg
Buffalo Springfield / Last Time Around

 ジムから戻ると妻のアキコと次女のユリナが昼ごはんを作って待っていた。
土曜日は朝のうちに仕事を切り上げて、午後からゆっくり過ごす。仕事帰りに近所のジムに寄って汗を流す。
ユリナは高校生にもなるが土曜日は家族の日と決めていて彼氏や友達との約束を入れていない。

 お風呂にゆっくり浸かって、3人でお昼ご飯を食べる。炊き立てのご飯とお味噌汁とお漬物と…まあ、そんな感じで質素に済ます。桃や.jpeg
今日のお味噌汁には、しめじとミョウガが入っていた。辛子明太子と桃屋の若摘み葉唐がらしをご飯に乗せてモソモソ食べる。
桃屋の若摘み葉唐がらしが最近の私のブームだ。

 アキコとユリナは、ユリナのバイトの話で盛り上がっている。私はテレビを横目で見ながら会話に入って行けないでいる。
「アヤネとユリナがね。お父さん改造計画を練ってるんだって」アキコが少し気を使って会話を振ってくれた。
「俺、改造したら大変なことになるぞ」私は多少ウケ狙いで話しかけたが、さっぱり、ウケなくて無視された。またテレビに視線を戻して少し凹む。

 もう何年も娘の目を見て会話が出来ない。恥ずかしい。自分は薄汚い中年だと必要以上に意識しているのかもしれない。いつも頭を悩ましているが、どうにもならない。
どうにもならないまま、長女のアヤネは関西の大学に旅立ってしまった。
 私が悩んでいるのを知ってかアキコが「二人ともお父さんを尊敬してるって言ってたよ」と嬉しいことを言ってくれる。私はもう少し詳しいことが聞きたい。掘り下げて検証したい。私は次の言葉を待つがアキコの話しには一貫性がなく、あっちこっちに飛んで行って、もう戻って来なかった。

 食後、自分の部屋でぼんやりCDを聞いてると、関西にいるはずのアヤネの声が聞こえた。慌ててリビングに顔を出すと、アキコとユリナがパソコンのスカイプでアヤネと話をしている。「ああ、スカイプか」私はパソコンの中のアヤネをチラ見する。元気そうだ。

「ああ、お父さん、アヤネがね。プリンタの印刷が出来ないんだって」とアキコが私の顔見るなり言った。
 おお。私の出番だ。私はこの方面でのみ存在感を示せる。「ああ、どいて。どいて」私は急に偉そうになる。私がアヤネに設定を教えていると、アキコとユリナは部屋を出て、どっかに行ってしまった。

 印刷の設定は簡単に済んだ。私は印刷が出来るか確認して「じゃあな」と言ってスカイプを切ろうとした。すると「ああ、お父さん」とアヤネが止めた。
 それからアヤネは「お父さん、ありがとう」と言った。私は一瞬言葉が出なくなる。娘にいろんなことを伝えたかった。でも私が伝えることなどに何の価値があろう。すべては娘が経験して学んで行くことだ。
「お前の好きなことを思い切ってやりなさい。お父さんとお母さんは、それが一番嬉しいよ」私はそれだけ言ってスカイプを切った。

 ソファに寝転んでいるとアキコが戻ってきて「アヤネと何か話せた?」と聞いてきた。私は「別に」と答る。アキコは見下すように「ほんとに子供ね」と吐き捨てて、またどこかに行ってしまった。

 私はソファに寝転んでリビングに差し込む午後の柔らかな日差しを浴びている。窓から差し込む日差しは黄色いカーテンで大部分が遮られていた。それでも、幾らかの光がカーテンを通り越して私に届いている。多くの物事は、そんな感じで、幾らか届いているものだ。
 届いているのだと思う。



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posted by sand at 08:11| Comment(0) | 超短編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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