2005年02月19日

Waterfalls

mccartney_II.jpg 滝.jpg

妻を探して、滝のそばまで来ている。

妻は、滝壷の前に、うずくまっていた。
「こんな所に、いたのか。探したよ。さぁ、子供達が待ってる。もう帰ろう」私は妻に声をかけた。

妻は、滝壷を眺めたまま返事をしなかった。

その滝は、それほど高く無い場所から少量の水を落し続けている。
滝壷のそばは、ひんやりした空気が渦巻いている。

「あなたは、何を探しているの?道具でしょ?」妻は私に、そう言った。
「君は道具じゃないよ。ずっと一緒にやって来たじゃないか」私は、そう言う。

「あなたが探している人は、もうずっと前に、あなたが見失った人でしょ?」

妻の言葉に、胸を突かれた。そうかもしれない。いつから私は妻を見失ってしまったのか。
彼女は、いつも私の横にいた。横で笑い。横で眠り。横で泣いた。
いつも横にいる彼女の顔を思い出す事が出来なかった。
彼女は、どんな顔で笑い。眠り。泣いていたっけ?

「もうダメなのかな?もう一度、やり直させてくれないか?」私は、すがるように妻に言った。

「あなたは忘れてしまっているのよ。私が、どんな女で。どんな顔をして、どんな物が好きで、どんな苦しみを抱えていたのか。何もかも思い出せないでしょ?」妻は後を向いたまま、諦めたように、そう言った。

確かに思い出せない。彼女は誰だ?彼女を愛した事があったのだろうか?

「ここまで苦労してやって来て、残したと思っていた物は、全部死んでいたのか。
全部壊れてしまっていたのか」

私は天を仰いだ。
滝から飛び散った水しぶきが両目の中に入り込んだ。
posted by sand at 14:30| 超短編小説@ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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