2011年05月29日

やがて夜の雨が訪れる

New Age of Eart.jpg
Ashra / New Age of Earth


 男は玄関のドアを閉めた。まだ夜明け前で、辺りは薄暗かった。
男の手にはボストンバックが一つだけ握られていた。門扉を閉じると表札のプレートを指でなぞった。
 自分の名前と妻の名前。それに二人の子供の名前を指先で読んだ。
それから暫く門の前に呆然と立っていた。これから男が捨てようとしているモノの重みで押し潰されそうになっていた。

 男は何度か携帯で時間を確認した。約束の時間が迫っていた。しかし、そこを離れる事が出来なかった。男は尚も迷っていた。
幾度も幾度も考え続けてきた事だった。男は脳みそが裏返るほど考えた。それでも結論は出なかった。
 男はその場に、うずくまって震え始めた。「やはり、ここを離れることは出来ない」男の心と男の身体は別物のように、その場から動くことが出来なかった。

 その時、匂いが漂ってきた。どこかで嗅いだ事がある匂いだった。その匂いに釣られて男の身体は動き始めた。その匂いのする方向に進み始めたのだ。
雨の匂いだ。

 男は不思議なことに、もうそれ以上は迷わなかった。男は心の中で、ある簡素な言葉の繋がりのようなモノを繰り返し唱えていた。
繰り返し唱えることで、男の足は前へ前へと一歩づつ進んでいった。


  例え、ここに日照りが続き、ギラギラとした太陽が照り付けても、
  例え、ここ風が唸り、カラカラに乾いた砂が舞い上がろうと、
  例え、ここに雪が舞い、シンシンと降る雪に皆の心が締め付けられても、
  やがては、夜の雨が訪れる


DODOSUKO3部作(その2)



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posted by sand at 07:07| Comment(0) | 超短編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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