2011年05月29日

ねこ渡船所を夢にみた

Hatfield And The North.jpg
Hatfield and the North

 その夢の始まりに僕は雲の上にいた。渡船所がある場所は厚い雲で覆われていた。
僕は次第に高度を下げて行く。雲の中は湿っていて僕の身体はジットリと濡れ、気持ちが悪くなる。

 ねこ渡船所は埠頭の端っこにあった。海上には水上信号機が設置され、水上交差点では何隻もの船が信号待ちをしている。少し先にある水上ハイウェイでは高速で走る船が切れ間無く続いていた。「ずいぶん賑やかな海だな」と僕は空の上から思う。

 渡船所の駐車場に降り立った。渡船所の地面は体育館マットのようにブヨブヨ柔らかで、僕は足をとられて歩き難い思いをする。渡船所の建物は原色の緑とオレンジで塗りこめられていてケバケバしく感じる。曇り空や荒れた海ともミスマッチで、僕は施工者のセンスを疑う。

 ターミナルは無数の猫たちで、ごった返している。猫たちは身体の一部分だけが他の部分よりも大きく、不恰好に思えた。ある猫は耳だけが大きく、ある猫は片腕だけが大きく、ある猫は片目だけが大きかった。それでも、いずれの猫たちも、それらのハンデキャップに意識的ではないように思えた。と言うより何も考えていないように感じられた。

 改札には尻尾だけが異常に大きな猫が、座っていた。猫の年齢は見た目には分かりにくかったが、かなりの高齢だということが、その話し振りから分かった。

「どこに行く?」改札の猫は僕に向かって話しかけた。僕の右手には「ねこの島」行きの切符が握られているのを、その時、気がついた。「ねこの島に行くみたいです」僕は答えた。
改札猫は見るからに不機嫌そうな顔つきになった。「みたいです。ってどういうことだ? お前の意思で行くわけじゃないのか?」と改札猫は迫ってきた。
「いや。そういう訳じゃなくて、多分、そうなのかな?ってことです」僕は曖昧なことしか言えなかった。ここでは何もかもが曖昧なのだ。

「ばかやろう! ドアホ! 尻の穴! うんこ! クズ!」改札猫は暴言の限りを吐きまくった。僕はオドオドして改札猫の暴言が収まるのを待った。

「なあ青年……」改札猫の暴言モードは収まり、しんみりモードが漂い始めた。僕は分かりやすいオーソドックスな猫だと思った。

「お前に必要なのはな。詰め込んだものを捨てちまうことだ。お前はな、詰め込みすぎてるんだよ」と改札猫は言った。僕はウンウンと機嫌を損ねないように、うなずいた。

「いいか。前に進もうと思うなら。今の自分にサヨナラしたいと思うなら、捨てちまうことが先なんだよ。捨てて捨てて、それでも前に進むなら、どうしても動かせないものが骨のアチコチに、こびりついているのが分かるようになる。生き物にとって必要なモノはそれだけで良いんだよ。それでけで生きて行けるんだよ」
改札猫はそれだけ言うと黙ってゴミ箱を差し出した。ゴミ箱には無数の切符が捨てられていた。僕は雰囲気的に切符を捨てろってことだなと察した。僕はゴミ箱に切符を捨てると改札猫にお礼を言って、そこを立ち去った。

 振り返って改札を見ると改札猫が「バカヤロウ」と次の乗船者に向かって怒鳴っている。多分、あの改札を通れる乗船者はいないのだろうと僕は思う。

 建物を出ると片平なぎさが待っている。断崖に連れて行ってくれると僕に言った。遅れている船越栄一郎の到着を待って、そこに向かう予定だった。僕は待っている間、片平なぎさの白くてプヨプヨしている二の腕を見ていた。「柔らかそうだな」と僕は思った。

 そこで、その夢は終わった。

DODOSUKO3部作(その3)



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posted by sand at 10:03| Comment(2) | 超短編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
おはようございます。実は寝ていません。

ラスト3行が妙なインパクトで猫の改札がやや霞みましたが、この展開は好きだな。
私の二の腕もプニョってしてます、何とかしたい。

ミクシの写真、おっしゃるとおり、大いなる嘘ですよ。撮影は数年前だから。
新たに近影、シワ&タルミぼかしてアップしました。もう寿命もそれほどないことだし、素顔隠す理由もなくなりました。鼻のデカい女です。嫌だけど老化を受け入れています。

では元気でね。
Posted by ring-rie at 2011年06月15日 06:16
こんちは。またまた遅れてしまった。ごめんなさい。実は少し体調を壊して歯医者に通っていました(虫歯かい)

短い小説を週一で書きたいと思っていますが、なかなか時間が取れません。忙しいのは良いことなんですけどね。

デカ鼻も素敵じゃないですか。穴の中に通帳と印鑑を仕舞えそうだし。

というのは冗談で、今となっては数少ないコメントいただけるお客さまなので大切です。ありがとうございました。
Posted by sand at 2011年06月25日 13:36
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