2005年02月27日

あわれな移民

I Pity the Poor Immigrant.jpg 猫.jpg

「今日は、冷えるね」埼玉ネコは、私に言った。

彼は、いつものようにゴミ置き場の壁にもたれて星を見ながら話した。
私は、爪を切りながら、その話しをボンヤリ聞いていた。
星の光を浴びて、爪切りがキラキラ輝いた。

彼の話しは、だいたい猫町の生活の事だった。
猫町の生活は、面白味に欠け、ただ怠惰に流れているように感じられた。
彼らは、だいたい、寝っ転がって、他の猫の悪口を言い合い、気の向いた時にだけ仕事をするようだ。

「あ、今、星が流れたよ。」埼玉ネコは言った。
「え、どこどこ」私は、顔を上げて言った。
「あっちから、こっち。」埼玉ネコは、夜空を指し示した。

「ねぇ、君は、自分が、どこから来て、どこに行くのか、分かるかい?」埼玉ネコは、指を左右に振りながら私に聞いた。

「ふうむ。」私は考えてみたが、まるで思い当たる事がなかった。
「ゴメン。分からないよ。君には、分かるのかい?」私は、埼玉ネコに聞いてみた。

「分かる訳ないよ。ボクらは、君らより、ずっと低脳なんだぜ。ボクらは、最初に心に浮かんだ事を信じるだけさ。」埼玉ネコは、そう言ってアクビをした。


・・「最初に心に浮かんだ事を信じるだけ。」
私は、その事について考えてみた。多分、埼玉ネコは、何も分かってない。でも彼には、知ってる事がある。

埼玉ネコは、低い声で鼻歌を歌い始めた。

 あわれな移民はかわいそうだ
 泥の中をよろめき歩き
 わらいで口をみたし
 自身の血で町をたて
 彼の希望はついには
 ガラスのようにこわれる
 そんな移民がかわいそうだ
 彼のよろこびがすぎさるときに。
 「Bob Dylan/I Pity the Poor Immigrant」


分かる事と知る事は違うんだ。
彼は、私が、知らない事を知っている。
私は、埼玉ネコに聞いてみた。
「君は、私が、どこに行けば良いのか、知ってるのかい?」

埼玉ネコは、キョトンとした表情で私に、こう告げた。
「もちろん、猫町さ。」
posted by sand at 16:24| 超短編小説・埼玉ネコシリーズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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