2005年02月28日

If Dogs Run Free

New Morning.jpg

サドルにうずくまった埼玉ネコは、身動きひとつしなかった。
それでも自転車は、風を切って進んでいった。
最初から約束されたように車輪は回り、ハンドルは左右に首を振った。

私は、後ろの荷台に乗っていた。埼玉ネコの背中は丸く風に吹かれて毛並みが揺れた。

夜の街には、誰の姿も見えなかった。
ただ、月明かりと建物の影だけが、この世を支配しているように移り過ぎていった。
暗闇には何の気配もしなかった。車輪の回る鈍い音だけが夜の街に木霊した。

私は、いったい、いつから、埼玉ネコの後ろに乗っているんだろう?
そういえば、ずっと、この自転車に揺られて街を走ってたような気がする。
いつからなのか思い出せない。

「ずいぶん遠くまで来たんじゃないかな?」私は聞いた。

「いや。まだ、ほんの、わずかしか走っていませんよ。」
「あなたは、急いでいるんですよ。」埼玉ネコは続けて言った。

「急ぐって、何を急いでいるんだい?」私は、聞いた。

埼玉ネコは、うずくまった首を左右に振りながら言った。
「あなたは、ちっとも自由じゃない。」
「何故なら、あなたは自由である事を恐れている。自由である事を否定しながら、自由である事をを求めている。」


言われる通り、私は、ちっとも自由じゃない。
どこで自由を無くしてしまったのか思い出せない。
ずっと以前の事なのだ。ずっと、ずっと前の事。

もう一度、埼玉ネコに聞いてみた。
「どこに行けば自由を取り戻せるのだろう?」

埼玉ネコは、首を長く伸ばし目を閉じて答えた。
「あなたの後ろ。あなたが追い抜いてしまったから。」


 犬が自由にはしるなら、なぜぼくらができない
 ひろがる大平原をこえて
 ぼくの耳は交響楽をきく
 二匹のラバ、汽車、雨
 最善のものはつねにこれからくるのだ
 ということが彼らがぼくに説明したことだ
 やりたいことをすれば きみは王様になる
 もし犬が自由にはしるなら
   「Bob Dylan/If Dogs Run Free」
posted by sand at 04:41| 超短編小説・埼玉ネコシリーズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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