

<ほととぎすクレヨン>が届いたのは、木曜日の午後だった。
私は、深夜からの仕事を終え、自宅で本を読んでいた。
チャイムが鳴って、郵便配達から、それを受け取った。
差出人の覚えは無かった。
<友見より>
裏書には、そう記されていた。
私は買い物に出かけている妻の携帯に連絡を取った。
「友見って人知ってる?」
「知らない」
あて先は、私の名前だ。
しばらく考えてから、その包みを開けた。
包みの中には、<ほととぎすクレヨン>だけがあった。
他には、なにも入っていない。
<ほととぎすクレヨン>には、<ほととぎすクレヨン>と印刷されていた。
ホトトギスのイラスト(多分)が添えてある。
私は<ほととぎすクレヨン>をテーブルの上に置いたまま、しばらく腕組みをして考えていたが、何一つ考えが、まとまらない。
仕方無く、床に置いてあった、飲みかけのワインのコルクを抜いてグラスに注いだ。
<ほととぎすクレヨン>を眺めながらワインを飲んだ。
<ほととぎすクレヨン>は、そこにはあるが、そこにあるだけだった。
「<そこにはあるが、そこにあるだけ>と言うのは、なかなか趣きがありますな」
私は、ひとりごとを言いながらワインを飲んだ。
それから<ほととぎすクレヨン>を耳に当てて、何か音がしないか聞いてみた。
無音だった。
でも、冷たくて心地よかった。
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