2005年03月10日

Time After TimeA

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Somebody

私はその時、40歳の誕生日を目前に控えていた。
その日は、新しい勤務地の赴任挨拶をする日だった。
大学を出て、地場のスーパーに入社し、今ではフロアを任されていた。給料は安かったが、仕事は好きだった。
上の子供は、来年中学に進む。二人の男の子の父として、また夫として私は出きる限りの事をしてきた。
また、これからも、そう、しなければならない。

でも、私には、何か、やり残した事があるような。
そんな気がいつもしている。
それは、ほんとに小さくて、そして重い感情だった。

赴任挨拶は、形通り終わった。事務所に戻ろうとする私に、後ろで話しを聞いていたパート社員が駆け寄ってきた。

「キタヤマダ君。憶えている?」
アキコだった。




僕とアキコは、二人きりで部屋に残された。

「ねぇキタヤマダ君。レコード沢山持ってるね〜。」アキコは僕に言った。

「うん、何か聴くかい?」僕は聞いた。
「そうね〜。洋楽詳しくないんだけど、ポリスある?「見つめていたい」って好きなのよね。」アキコは答えた。
「あ、それなら最近出たスティングのソロが良いよ。「セット・ゼム・フリー」ならヒットしてるから聞いたことあると思うよ。」僕は、スティングの「ブルータートルの夢」をプレイヤーに乗せた。

「ああ!知ってる。知ってる。MTVで観たよ。そうか、キタヤマダ君は<俊敏な耳>をしてる訳ね」
ボソッとした話しぶりが可笑しくて笑ってしまった。アキコも楽しそうに笑った。
それからMTVのセーラとマイケルは、仲が悪そうだよね。と話をした。
女の子と話すのは苦手だったのにアキコとは自然に話が出来た。

アキコは、他にブライアン・アダムスの「サムバディ」が好きだと言った。僕はレコードを持ってたので、後でかけようと約束した。

「ねぇキタヤマダ君。どうして恋人作らないの?」アキコが、不意に聞いてきた。
「いや。作らない訳じゃなくて、もてないから出来ないだけだよ」
「そう?そんなに、もてないようには見えないけどね。・・ごめん。やっぱり見える」
僕は、がっくりうつむいた。

「あはは。冗談よ。男は顔だけじゃないって」アキコは笑いながら言った。
「あのですね。どんどん傷ついて行くんですが・・」

「ははは。キタヤマダ君はね。タイム感が今風じゃないのよ。全然ナウくないのよ。」
「なるほど。タイム感ですか」
「だから、普通、なるほど、とか使わないの」

「キタヤマダ君のタイム感はね。後期8時だよ全員集合と俺達ひようきん族の中間地点にあるわ。」アキコは続けて言った。
「なんだい。それは。全然違うよ。」僕が突っ込むと、アキコはケラケラ笑っていた。

「キタヤマダ君は、進路決めたの?」アキコは、急に真面目な顔で言った。
「うん。流通関係に行こうと思ってるよ」
「ふ〜〜ん。真面目なんだな〜。やりたい事が決まってるって良いな〜。私は、何をやれば良いのか分からないんだよ。何が出来るんだろうね〜。私って」アキコは、こう言って背伸びした。

それは80年代の事だった。僕らは80年代の中ほどに、がっちり足を、からめとられていた。僕らは、この、ソワソワとした時代に、置いてきぼりを食ったような気がしていた。
それはブライアン・アダムスが「サムバディ」を歌った時代だった。
posted by sand at 03:03| 連作小説・アキコ物(Time After Time) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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