2005年03月08日

Time After TimeC

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Hungry Heart

我々は、時々、会って話しをするようになった。
カーオーディオで80年代の音楽を聴き、少しだけ話をして帰るだけだった。
ちょうど、昔、アキコが私の部屋に来て過した時間と少しも変わりは、なかった。

「何が、足りないの?」アキコは、私に聞いた。

私と私の妻は、常にトラブルを抱えた家庭に育った。子供には、あの思いをさせたくなかった。
それは我々夫婦の共通の認識だった。我々は、これまでケンカらしいケンカもしないで、ここまで来た。特に無理をした訳ではない。
私は、ごく普通に、妻を愛し、尊敬もしている。
仕事は、希望の職種につく事が出来た。概ね満足している。足りないものなど、ありえなかった。
私は、その事をアキコに伝えた。

アキコは自分の事を話した。
「家庭を築くのは、重労働よ。でも当たり前の事なの。誰からも誉められないわ。それが当然の事だから。
時々、その事に押しつぶされそうになるわ。それが、あまりに普通の事過ぎて。
私は、精一杯やってきたのよ。誰にも認めてもらえなくても、それは、そうなの。だから、足りないものがある、なんて認めたく無いのよ。認める訳にはいかないの。
でもね。
認めたく無いって思う事は、認めてるって事なのかな?
そうでなければ、あなたに会う理由も見つからないわ。」

ブルース・スプリングスティーンは「ハングリー・ハート」を歌った。

 誰もが満たされない心を持っている
 誰もが満たされない心を持っている
 金を貯め 自分の役を演じても
 誰もが満たされない心を持っている。
  「Hungry Heart/Bruce Springsteen」

私には自分が分からなかった。何を考え、どこに行こうとしているのか。

私は、いったい、ここで何をしているのだろう?

車内には、欠けた心が、2つ転がっていた。ただ、転がっているだけで、動く事など決して無かった。
posted by sand at 15:11| 連作小説・アキコ物(Time After Time) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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