2006年09月07日

象が舞い降りた日(前篇)

woyaya.jpg
Osibisa / Woyaya

★まるで、まとまりません。読まない方が良いでしょう。とりあえず途中まで書いたので・・・

 オイラは電柱に止まった象を見上げていた。
象を間近で見るなんて信じられない。オイラはワクワクしていた。
もちろん目の前で象を見た事のあるヤツなんて誰も知らない。

 象は空に住む生き物だ。それも飛び切り高い空だ。
子供の頃、父さんと一緒に『空の茂み』を見上げたもんだ。父さんは象の群れを眺めるのが好きだった。
人一倍無口で生真面目な男だったけど象の事になると熱く語ったもんだ。
オイラと父さんは工場の裏にある丘の上に寝転がって、象の群れが『空の茂み』から飛び立ったり、舞い戻ったりする姿を見上げていた。
 もっとも象の姿は蟻くらいの大きさにしか見えなかった。
長く目上げていると目が疲れて痛くなった。けど父さんは飽きずに何時間も見上げていたっけ。

 象は丸々とした巨体を折りたたんで電柱の天辺に腰かけていた。腰掛けてるって言うより引っ掛かっているって言った方が良いかな?巨大なアドバルーンが電柱に絡み付いて風に揺れている感じがした。
 象は遠くを見ていた。オイラには気付かない。ずっと遠くのビルの群れに沈んだ視線を向けていた。

『俺が、どんな風に見えるか?』象はオイラに視線を向ける事なく、そう聞いてきた。

 オイラはドキドキしながら辺りを見渡した。誰もいない。まだ朝焼けが残る早朝だった。さっきから、この脇道には車も通っていなかった。

「あの〜。オ・オ・オイラに話しかけたのかな〜?オ・オ・オイラ上手く喋れない。たぶん、が・が・がっかりする…だから、だから、他の人が良いよ。もっと、ス・ス・スラスラ喋れる人が良いよ」
 オイラ、父さんに似て喋りが苦手だった。オイラが喋り始めると皆困った顔をして話しを終わらせた。オイラは喋ったらいけない人間なんだ。そうすれば皆が上手くゆく。

 父さんは『空の茂み』を眺めながらオイラに話したもんだ。
「黙ってりゃ良いよ。無理なんかするな。黙って一つの事をずっと続けろ。誰かが気がついてくれる。誰かが俺達に気がついてくれる。…そんなもんだ」

『お前に興味はない。俺はお前の目玉に映る、俺の姿に興味があるだけだ』象はやっぱり遠くを眺めながらオイラに話しかけた。象は随分弱っているように見えた。
『俺はもうすぐ死ぬ。俺達は死ぬ直前にだけ地上に舞い降りる事を許される。と言うより身体が重くなって自然に落っこちるだけだがな。
知ってるだろ?俺達の身体は空洞だ。何もありゃしない』


 父さんは病院のベットに横になってオイラの手を握り締めて、こう言った。
「無って、どんなものだろう?」

『かって俺達の祖先は地上に住んでいた。そして信じられないくらい重い身体を持っていた』象は何かを確認するように話しを継いだ。それはオイラじゃない。象は自分自身に向かって話かけているような気がした。
『先祖達は重い身体を引き摺りながら、大空を見上げて願ったのだろう。空へ。空に駆け上がりたい。
俺達は純粋な種族だった。呆れるほど純粋だったのだ。俺達の総意は空に向かっていた。他の可能性など微塵もよぎる事はなかった。
 幾代も幾代もの祖先は倒れ、幾重もの幾重もの願いが残された。
俺達の身体は少しずつ少しずつ変異して行った。小さな羽根は、やがて力強さを増していった。鉛のように重かった身体は、風船のように軽々と空に浮かんでいった。

 ある時、遂に俺達の先祖は大空を羽ばたいた。それは俺達の誇りの瞬間であり、呪いの始まる瞬間であった』


posted by sand at 20:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 超短編小説C | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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