2005年03月10日

Snowman

english settlement.jpg雪だるま.jpg

「ちょっと!あなた、玄関に変な雪だるまが来てるのよ」
ソファに横になっていた私を妻が呼びに来た。

夕食にワインを飲み過ぎて、ソファで寝入ってしまったのだ。

玄関に行くと、確かに、雪だるまが、文句をブツブツ言っている。
「ったく。いつまで、待たせるんだよ。ケッ!金のかかってねぇ家だな」

「はい。なんですか」私は言った。

「なんですかも、クソもねぇよ!はやく家に入れろよ!」雪だるまは、大声で怒鳴った。
「入れろって言っても、用がなければ入れられませんよ」私は言った。

「お前になくても、俺にはあるの。もう良いよ。勝手に入っちゃう」雪だるまは、ズンズン家の中に入っていった。

「ああ。入ってちゃった。でも、暖炉の炎で、直ぐに溶けるよ」私は妻に、そう言った。

雪だるまは、暖炉の前のソファに座ると、テレビを見ながら、あれこれ文句を言い出した。
でも、全然、溶ける気配が無い。子供達は雪だるまが来てくれて嬉しいようで、ワイワイはしゃいでいる。
「性格が悪くて、心が氷みたいに冷たいから溶けないんだろうね」私は妻に言った。

しばらくすると、雪だるまは眠くなったようで、目をこすりながら、あたりをキョロキョロ見まわし、私に、こう言った。
「ああ。眠くなった。2階は何の部屋?」
「2階は、物置ですよ。」私は雪だるまに言った。
「あ、そう。じゃ2階で寝させてもらうよ。おやすみ。また明日。」
そう言い残すと、雪だるまは、ズンズン階段を上っていった。
「おいおい!」私は呼び止めたが、すぐに物置のドアをバタン!と閉められた。

「ま、夏までには溶けるだろう」私は、肩をすくめて妻に言った。
「そうね」妻も肩をすくめて笑って言った。

そんな訳で、我々家族と雪だるまの奇妙な同居生活は、始まったのでした。

翌朝、物置に行ってみると、雪だるまは体操していた。
「なに、やってるんですか?」私は、雪だるまに聞いた。
「見りゃ分かるだろ!編み物してるように見えるか!競馬やってるように見えるか!体操だよ!体操!アホか、お前!」相変わらず雪だるまは口が悪い。
「しかし、君は、良く見ると、XTCのアンディ・パートリッジに似ているね。今日から君をアンディと呼ぶ事にするよ」私が、そう言うと、雪だるまのアンディは、ブツブツ文句を言っていたが、ちょっとだけ嬉しそうに見えた。

雪だるまのアンディは口は悪いけど、別に迷惑をかける訳ではなく、むしろ、いろいろ手伝いをしてくれた。

朝、起きると、真っ先に屋根の雪降ろしと、家周りや道路までの雪をスコップで綺麗に掃除してくれた。
お昼は、妻の掃除や洗濯を、こまごまと手伝ってくれた。
子供達が学校から帰ると、良い遊び相手になって、外を跳ね回ってくれた。

アンディは、食べ物を食べなかったので、我々が食事している最中は、ソファに座りテレビに向かって悪口を言っていた。
我々が食事を終えて、居間に集まるのと入れ替わりに2階に上がって行き、それっきり朝まで降りては来なかった。
私は、一度、夜、何をしているのかと物置をコッソリ覗いて見た事がある。
アンディは、横になって、窓から見える月を、ぼんやり眺めていた。
私は、なんだか気の毒になって、声をかける事が出来なかった。

ある日、事件がおきた。

下の娘が、スキーの授業中、急な悪天候に見舞われ、二人の友達と一緒に山頂に取り残されてしまったのだ。
事態は一刻を争った。我々は大慌てでレスキュー隊に手配したりしていた。
アンディは、いつものようにブツブツ文句を言い出した。
「まったく世話がやける。人騒がせなヤツだ」
私は、涙が出るほど腹が立って、持っていた受話器をアンディめがけて投げつけた。
「出て行け!二度とこの家には入れない!」私は、アンディに怒鳴った。
アンディは、そのまま、プイと外に姿を消した。

救助隊が組織され、吹雪の中、我々は懸命に山頂を目指した。
その時、山頂から、コロコロ丸い雪の塊が転がって来るのだった。
それは、アンディだった。
アンディは、我々の前で止まると、お腹をポコンと叩いた。
中から三人の少女が飛び出してきた。
娘だった。
「パパ!アンディのお腹の中、とっても暖かかったよ」娘は私に言った。


それから月日が流れた。季節は、雪解けの春を迎え、やがて、暑い暑い夏が訪れた。
その後、雪だるまのアンディは、どうなったのかと言うと・・。
実は、まだ2階にいるのです。
posted by sand at 03:05| 超短編小説@ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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