2005年08月26日

斉藤清六的空間

斉藤清六.jpg

我々は、空間に生きる。そこに暮らし、そこに死ぬ。
それは、過去から未来へと数珠繋ぎに連なり、絡み合い、移り変わる。
ある時、君の脳裏に、裏通りを照らす街灯のようにポツンと明かりが灯る。
「斉藤清六的空間とは?」

君は、高くそびえ立つタワーの前に立っている。
見上げるとタワーの頂上近くに展望台が設置され、人々が君を見下ろしている。

君はタワーのロビーに足を踏み入れる。そして、展望台までノンストップで駆け上がるエレベーターの前に立つ。

君は下を向いて考え事をしている。やがて、エレベーターの扉が開く。
君は、下を向いたまま、そこに乗り込む。
ようやく顔を上げた時に君は気付く。
そこには斉藤清六が笑って立っている。他には誰もいない。
君の後ろで扉が閉まる。
君は、そこから逃げられない。

君は斉藤清六と目を合わせないように扉の方向を向いて息を潜める。
でも、君は斉藤清六から逃げられない。
何故なら、そこは、斉藤清六的空間だから。

君は、斉藤清六に含まれる。彼にもてあそばれ、彼に撫で回される。彼に蹂躙され、彼に慰められる。彼に溺愛され、彼に甘やかされる。彼に、不必要なほど癒され、泣きたくなるほど楽しまされる。

君は震えて立ち尽くす。頬から滝のように汗が滴り落ちる。

扉が開き、君は、決して後を振り返らずに展望台のトイレに駆け込む。君は、そこで何度も嘔吐する。

ようやく気分が落ちつき、トイレの扉を開ける。
そこには斉藤清六が笑って立っている。

君は、そこから逃げられない。


posted by sand at 19:35| 超短編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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