2005年03月04日

Time After TimeG

She's So Unusual.jpg
Time After Time

アキコは、小さなトラブルをいくつも抱えていた。
もちろん、私も。
我々は、それらの話しをした。と言っても、特に何らかの解決方法がある訳ではなかった。
それを承知で、ただ話しをしたかっただけだった。
私は、アキコが、ご主人と円満である事を願った。
アキコの子供たちが真っ直ぐに成長してくれる事を願った。
アキコの親族が、いつまでも健康である事を願った。
アキコが幸せでいてくれる事を願ってやまなかった。
そうであるはずなのに、それでもなお、私はアキコに会いたかった。

「どうしてだろう。君とは、ずっと離れていたのに、ずっと君と一緒だった気がするんだ。
ずっと、どこかに君がいた気がする。ちっとも憶えてなんか、いなかったのに。」私はアキコに言った。
アキコは急に笑い出した。可笑しくて、たまらない。と言った感じだ。

「なんだよ。受け過ぎだよ」私は苦笑いしながら言った。
それでも、アキコは両手で顔を覆って笑っている。

「あ、そうそう。君は昔、小鳩の話しをしてたよね。金持ちの娘が腹の中に飼ってる小鳩。憶えてるかい?」私は聞いた。
アキコは、顔を覆ったまま、首を縦に振った。

「君の小鳩は見つかったんだろ?」
アキコは笑うのを止め、両手を顔から下ろして、もう一度、首を縦に振った。

それからアキコは、こう言った。
「あなたよ」

「え?」私は、もう一度聞き返した。

「あなたの順番よ。」アキコは、そう言うと私の目を覗き込んだ。
その瞬間、私は、意識がフッと消えて行った。

気がつくと、私は光りの海の中にいる。赤や黄色、緑、青、様々な光りが重なり合い、交差し、まるで万華鏡のように幻想的な光景を織り成している。
強い光が前方から発せられ、私の目を眩ませる。そこに誰かいる。強烈な光りの渦の中に誰かが潜んでいる。

私は、その影に向かって叫ぶ。
「お前は、何を知っている?」

影は、もぞもぞと動き。やがて、「パチン!」と指を鳴らす音が聞こえる。
それから、私に向かって鋭い調子で言葉を発する。

「君は、そこから逃げられない!」

私の意識は、もう一度、遠のく。

意識が戻り、目を開けると私は、ハンドルにもたれていた。

隣で、アキコが微笑んでいた。
「どうしたんだろう?」私はアキコに尋ねた。

「大丈夫よ。私には、わかっていたわ」アキコは、そう返事をした。


私は、振り子のような感覚に身を任せていただけなのかもしれない。
あの時代は、キウチが支点になって私とアキコは揺れ動いていた。今は、多分、両方の家庭が支点なのかもしれない。
私は、ユラユラ揺れる不安定な感覚に心を奪われていただけなのかもしれない。

80年代は、ソリッドな時代ではなかった。少なくても我々にとっては。
あの時代は、余分な物に包まれていた。ありとあらゆる余分な物が、我々を包み隠していた。

今、ソリッドな荒野に立ち、厳しい旅を続ける我々には、80年代の余分が心地よかった。あの余分に埋もれたかった。あの余分を、もう一度、夢に見たかった。

カー・オーディオからは、シンディ・ローパーの曲が流れ始めた。

「じゃ、帰るわ」アキコは、車の扉を開けた。
外は、雨が降っていた。
アキコは、青い傘を開いた。アキコは、外に下り立つと扉を閉める前に、私に向かって声をかけた。
「小鳩は<夢>。あなたの<夢>の中にも小鳩は住んでいる」

アキコは、車のドアを締めた。
青い傘が車の前を通り過ぎて行く。
その傘は、クルクルと廻っている。私は、それを目で追う。

傘は不意に動きを止め、アキコがこちらを振り返った。
アキコは、私に向かって手を振った。

私はアキコに手を振り返す。

雨は、青い傘を叩き続ける。それでも、アキコは手を振り続ける。
何度も。何度も。


If you're lost you can look - and you will find me
Time after time
If you fall I will catch you - I'll be waiting
Time after time
 「Time After Time/Cyndi Lauper」
posted by sand at 16:14| 連作小説・アキコ物(Time After Time) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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