2006年10月14日

マーティン・スコセッシの夜(前篇)

Last Waltz.jpg
The Band / The Last Waltz

 その頃、僕はまだ若く、アライグマ男もまた若かった。

 僕らは映画館の中にいた。『マーティン・スコセッシの夜』と題されたレイト・ショーを観ていた。
プログラムは三本立。『ミーンストリート』『タクシードライバー』 そして『ラスト・ワルツ』だった。

Mean Streets.jpgTAXIDRIVER.jpgワラテ.jpg

 映画が、はけたのは午前3時過ぎで僕らは寒風の中を颯爽と歩き出した。
僕はデニーロのようにブルゾンに両手を突っ込み、肩をすぼめ、うつむき加減に歩いた。アライグマ男は、ガース・ハドソン!のように胸を張り、腹をそれ以上に突き出し、仰け反るようにして歩いた。

 僕らは、どこにでもいる、つまらない若者だったが、少なくとも、その夜だけはイカしているような気がしていた。
黄色いネオンが灯る店の前に着くと、僕は立ち止まった。
「どうだい?」僕はドアに向かって顔を振る。
アライグマ男は大袈裟に肩をすくめて答えた。
「ボブ・ディランなら、こう言うだろう。Baby Let Me Follow You Down(連れてってよ)」

 僕らは扉を押し空けて吉野家の店内になだれ込んだ。
僕は牛丼の大盛とビール。アライグマ男は牛丼の大盛と味噌汁(ご飯だけ二杯おかわりした)。

 牛丼を食べ終わると向かいのコンビニに移動した。僕は『月間ジャンプ』を読んだ(コンビニの立ち読みは普段買わない月刊誌が最適)。アライグマ男は『週間現代』と『週間ポスト』を交互に読み比べている。「また何を調べている?」僕が聞くとアライグマ男は歯を剥き出してニッタリと笑った。あまりに気色悪かったので、そのまま放置した。
 それから二人でインスタントラーメンを一つ一つ手にとって、あれこれ吟味して行った。二人はラーメン薀蓄を激しくぶつけ合った後、何も買わずにコンビニを出た(暇なのだ)。

 しばらく歩くと踏み切りに差し掛かった。僕は脇によけて線路に向かって立小便を敢行した。ひとしきり放尿し急速な寒気による武者震いを消化してアライグマ男を捜すと、彼は反対方向を線路に沿って歩いている。

「おい!君!君は中村雅俊直系の日テレ・ゴールデンタイム風青春を演じるつもりかい?」僕はアライグマ男に真意を正した。

 アライグマ男は、僕の問いかけに答えず黙々と歩いて行く。彼はいつから、そんな男だったけ?
彼のズングリした後ろ姿は『キャラバン』を歌うヴァン・モリソンみたいだった。
 僕は溜息をついて彼の後を追う。暗闇の中に真っ直ぐに伸びる線路に沿って歩を進める。

 いつしか暗闇は僕らを包み込む。線路は真っ直ぐに途切れる事無く続くばかり。僕らは、この先、どこに辿り着くんだろう?どこまで歩けば光がみえるのだろう?
僕らを漠然と支配している力の正体は?僕らは、どうやって僕らがしがみ付いてる古い自分自身から解き放たれる事が出来るのだろうか?
 僕はアライグマ男の背中の向こう側に広がる、真の暗闇の正体を考え続けていた。

 I see my light come shining
 From the west down to the east
 Any day now, any day now
 I shall be released.
  Bob Dylan / I Shall Be Released



★長くなったので2回に分けます。歌詞はクレームがつけば即削除。
posted by sand at 20:14 | TrackBack(0) | 超短編小説・アライグマ男シリーズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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