2006年10月31日

10mの想い(前篇)

Here today gone tomorrow.jpg
矢井田瞳 / Here today-gone tomorrow

 その10mの間だけ、彼女はボクの物だった。

 ボクらは高校3年で、そろそろ進路を決める時期に来ていた。
ミヨシさんはクラスでも最も目立たない女の子で、ボクはと言えば、お調子者で皆から、からかわれる損な役回りだった。ボクは不細工で、異性には縁が無いまま高校生活が終わろうとしていた。

 ミヨシさんは、ホッソリした綺麗な顔をしていた。それは男子生徒の中でも評判だったのだ。でも彼女は決定的に明るさに欠けていた。「もっと面白かったらね〜」「暗いからな〜」男達の間では、そんな風に噂されていた。
 でもボクは知っていたんだ。彼女が、とてもチャーミングに微笑むのを。それはボクら二人だけの場所での事だった。

 ボクはラグビー部で、ミヨシさんは女子テニス部だった。クラスで、それらの部に所属してたのは、それぞれボクらだけだった。ラグビー部と女子テニス部の部室は同じ方向にあったので、ボクらは何度も渡り廊下で一緒になった。渡り廊下は約10mで、ボクとミヨシさんは、そこを並んで歩きながら話しをした。
 特に面白い話題ではなかったけど、ミヨシさんはボクの話しにニッコリと微笑んでくれた。ミヨシさんの、そんな笑顔は教室でも見た事がなかった。ボクはその微笑を見るたびに、すごく大切な物を見つけた気がした。それは本当に眩しいほど美しかったんだ。

 それからボクはホームルームが終わると、急いで靴置き場に飛んで降りて、彼女が来るまでウロウロと時間を潰すようになった。彼女はテニスラケットを持って、うつむいて現れた。ボクを見つけると、ほんの少しだけ微笑んだ。ボクはそれを見ると胸が痛くなった。その微笑みはボクだけの物のように感じ始めていた。
 渡り廊下の10m。ボクは友達の事や先生の事、それからテレビの話題なんかの話しをした。ミヨシさんは、やっぱり無口で話しを聞いてるだけだったけど、熱心に耳を傾けて時々ニッコリ微笑んだ。ボクはその顔を見てるだけで幸せになった。
 10mは、すぐに終わってしまった。ボクらは、それぞれの部室がある方向に別れた。ボクは、彼女と別れて一人になると途端に孤独になった。今まで味わった事もないほどに。

 その日は、ボクはホームルームが終わっても、テストの追試で教室に残されていた。もちろん、ミヨシさんは、そこにはいなかった。彼女の成績は優秀だったのだ。ボクは、ずいぶん遅れて部室に向かった。階段を降りて靴置き場に着くと、ミヨシさんがグランドの方を向いて立っていた。ボクは驚いた。
「あ、どうかした?」ボクはミヨシさんに聞いた。
彼女は首を横に振って、荷物を手に持った。
 ボクらは何事もなかったように並んで歩き出した。ミヨシさんは待っていてくれたのかな?
ボクは嬉しかった。そして動揺した。両手に抱えたラグビー用具を全部取り落としてしまった。ラクビージャージやヘッドキャップやスパイクが地面に散らばった。ボクは屈んで、それらを拾い集めた。ミヨシさんも屈んでヘッドキャップを拾い、ボクに手渡してくれた。
 ボクはそれを受け取る時に彼女の指に触れた。ミヨシさんの指は温かくて、とてもとても細かった。


 ボクらの時間は、それほど多くは残されていなかった。ボクらは二人とも進学希望だったし、県大会が終わればクラブ活動は終わりになってしまう。
 ボクは彼女に気持ちを伝える必要があった。ボクは彼女を好きになっていた。

 その知らせは、そんなボクの気持ちを嘲笑うように届けられた。無情にも。
ミヨシさんは隣のクラスの男子テニス部の男と付き合っているって言う噂だった。その噂には信憑性があった。確かにテニスコートで、よく立ち話をしていた。男はボクより、かなり男前だった。
 ボクは落胆した。自分が情けなかった。何を一人で思い込んでいたんだろう。彼女はボクなんかより、ずっと頭が良くて美人だったのだ。ボクなんかが手を出せる人じゃなかったんだ。

 その日からボクは彼女を避けた。ボクは、これ以上、恥ずかしい思いをしたくなかったし。彼女を問い質したりも出来なかった。
 ボクは階下まで駆け降りると部室まで走って渡り廊下を渡った。横には誰もいなかった。もう誰も必要なかったんだ。



★安穏シリーズ。第二話。テーマは『甘酸っぱい』なんすけど…。
簡単に書くつもりが長大になってしまった。本日はタイムアップ。
続きは多分、明日ですが。甘酸っぱく出来るのでしょうか?出来なかったら笑ってください。では。

★エバ緑さん、タルさん、コメントありがとう。レスは明日まで待ってくれ。


posted by sand at 17:10| Comment(2) | TrackBack(2) | 超短編小説C | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 いいねえ、甘酸っぱいねえ。ドキドキします。恋が成就して欲しいなとか、残酷な結果になって欲しくないなとかいろいろ考えます。特に自分は男子校だったので思いはひとしお。
Posted by ITORU at 2006年10月31日 20:23
まいどです。いつも、ありがとうございます。
後編、昨日書いたけど出来が悪かったのでボツにしました(寝不足で頭が回転しなかったから?)。今日、これから再挑戦。書けなかったらゴメンなさい。
Posted by sand at 2006年11月02日 16:31
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Tracked: 2006-10-31 20:23

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