2006年11月02日

10mの想い(後篇)

52nd Street.jpg
Billy Joel / 52nd Street

 ミヨシさんと歩く事が無くなった学校生活は、ひどく味気ないものになった。でもボクは元々そうだった。元々何も無い男だったんだ。ボクは教室の中を彼女の視線から身を隠すようにコソコソと逃げ回った。ボクは怖かった。自分を傷つける、あらゆる物が。もちろん、それがミヨシさんであっても。

 季節は秋から冬へ色合いを変えて行った。女子テニス部の県大会も終わり、ボクらラクビー部の県大会も終わりを迎えた。全国大会を目指していたボクらは準決勝で敗退してしまった。ラクビーはボクの高校生活の全てだった。ボクはそれさえも中途半端に失ってしまった。ボクには何も残らなかった。
好きなラクビーも。好きな人も。

 ボクは途方に暮れてしまった。受験シーズンも佳境に入ろうという時に、ボクは何も手につかなくなっていた。授業が終わり下校時間になっても、ボクは家に帰らずにブラブラとグランドを歩き回った。
後輩達が無心にボールを追いかける姿をぼんやりと眺めた。
 女子テニス部にも、もちろんミヨシさんの姿はなかった。ボクは彼女の笑顔を思い出した。
彼女の暖かい指先を思い出した。彼女が靴置き場に立っている姿を思い出した。彼女が待っていたのは誰だったんだろう?テニス部の男だったのか?それともボクだったのか?

 校庭を夕陽が染めて行く。ボクは赤く染まる校舎を眺めた。校舎はもう人影の無いシンとした佇まいを見せていた。ボクはグランドから靴置き場に視線を移した。真っ赤な夕陽が映し出す靴置き場は閑散とした侘しさを感じさせた。

 ん?誰か立っている。ボクは胸騒ぎを感じた。まさか、そんな訳が無い。でも…でも…。
ボクは靴置き場に向かって歩き始めた。そんな訳が無い。分かっている。でも…でも…。

 靴置き場に立っている人影は、次第に輪郭をハッキリとさせて来た。女の人だ。ボクは駆け出した。
朝礼台を過ぎた時、それが誰だか分かった。ミヨシさんだ。間違いない。
彼女は誰かを待っている。ボクは走るのを止め、辺りを見渡した。誰だ?誰を待っている?
それはボクじゃない。ボクの訳がない。

 でもボクは彼女を一人にさせる訳にはいかなかった。もう、ここから逃げ出す訳にはいかなかった。
 ボクはミヨシさんに駈け寄った。

「どうかしたの?」夕陽を浴びて、ひっそりと立っているミヨシさんに聞いた。
彼女は、少しだけ微笑んで首を横に振った。そして荷物を手に持った。
 待っていてくれたんだ。ずっと、ここに立って。ボクは胸が熱くなった。

 ボクとミヨシさんは何事もなかったように並んで歩き出した。もう一度、あの渡り廊下の10mを。
ボクらは、その10mを歩きながら何も話さなかった。話す必要なんかなかったんだ。
言葉なんて必要なかった。彼女が横にいれば、それで良かった。

 やがて渡り廊下の10mが終わった。ボクらが、いつも別れた場所だ。
でも、もう部室に行く必要はない。

 ボクはミヨシさんに手を差し伸べ、もう一度、その指先に触れた。
そして、今度はシッカリと握り締めた。ボクは彼女の手を引いて、その先へと歩き始めた。
 その先に何があろうと、ボクはこの手を離しはしない。

 ボクらが育んできた『10m分の想い』は、夕闇の帰路を照らし出すように、煌々とした明かりを灯していた。




★安穏・第二話。テーマは「甘酸っぱい」。甘酸っぱくなれたでしょうか?ダメっぽい。無理があるよな〜。こういうのは難しい。2回書き直しました(無駄な努力)。次回は少年時代が書きたいものです。テーマは「Back To 昭和40年代」まだ何も考えてないけど。

今回のBGM(書いてる時の)は、前半が矢井田さんの「モノクロレター」と「ゆらゆら」。後半が、Billy Joelの「Honesty」と「She's Got a Way」でした。これも意味ないけど。良い曲です。

こんな駄文を書き始めて2年になります。よく続いています。上達しないけど。
下手だけど書くのは面白いです。アマチュア俳句とかアマチュア・ミュージシャンとか。そんなノリで考えています。どうぞ宜しくお願いします。


posted by sand at 19:56| Comment(7) | TrackBack(0) | 超短編小説C | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ああ良かった。とにかく主人公が不幸にならなくて良かった。蔭ながら応援してました(意味無いけど)。
なんか、もきゅもきゅしましたよ。最近、このもきゅもきゅが足んなかったんですね。本気で「命の母」飲もうかと思いました。やっぱもきゅもきゅは定期的に補給しないとね。

「オネスティ」には複雑な思いがあります。・・・うーん、長いので自分のブログに書こう。
あ、「のだめ」見てないよ。めんご。でも玉木宏はなかなか好き。(聞かれてない)
Posted by ショコポチ at 2006年11月02日 22:13
 おお!SANDさんらしからぬハッピーエンド!!
 確かに、ビリージョエルを聴きながらだとこの結末も納得です。途中に辛いに気持ちになりながらも、何とか希望に向かっていこうという気持ちが彼の音楽にあります。
 十分に甘酸っぱさを味わいました。
Posted by ITORU at 2006年11月03日 07:26
ショコポチさん

どうも読んでいただきまして、ありがとう。

そちらの書き込みが意味不明でした。とにかくビリーは苦労してる職人気質だから、甘いだけのAORシンガーとは違うんよ。そんなビリーを分かってあげてね。とか傷をナメ合う女々しい男のような事を言ってる訳ですね。実際、女々しいし。

私はですね。いろいろ乗り越えて、そんで甘い声で「オネスティ」を歌えるビリー・ジョエルって歌い手に男を見る訳よ。泣けちゃう訳よ。
こういうのを居酒屋で男同士でお話するのが、正しいロクデナシのあり方です。

>もきゅもきゅが足んなかったんですね。

モミモミは如何ですか?助太刀いたす。

>本気で「命の母」飲もうかと思いました。

もう「救心」とか「養命酒」の年頃ね。

>やっぱもきゅもきゅは定期的に補給しないとね。

旦那さんの、お財布にもマネー補給してあげて下さい。

>「オネスティ」には複雑な思いがあります。

読みました。凄いな〜。そんな文章、逆立ちしても書けません。志穂美さんのコメントも凄いね。このお二人のセットは↓で。
http://konore.seesaa.net/article/26671396.html#comment

なんか中野のバーで、とぐろを巻いてる目つきの悪い酔っ払い女達の会話は読めます。恐々読みましょう。

>「のだめ」見てないよ。

たわけ。

>でも玉木宏はなかなか好き

これは良いね。でも「かおる姫」には敵わない。

ITORUさん

>ハッピーエンド!!

根が暗いのでハッピーエンドは四苦八苦しました。

>何とか希望に向かっていこうという気持ちが彼の音楽にあります。

うむうむ。苦労しているからね〜。
貧乏人騙すには「苦労」の二文字さえあれば良いかもね。「苦労」って言葉に弱いね〜。コロッと騙される。

>十分に甘酸っぱさを味わいました。

いつも、ありがとうございます。今後も精進いたします。
Posted by sand at 2006年11月03日 21:44
こんにちは〜。
私の高校生時代はのだめの1年前のシチュー並みに黒くてとぐろを巻いていたから、この主人公たちの気持ちは全然分かりませぬ。
秘かに憧れていた男子(喋ったこともない)が、自分よりも何倍も可愛い女子と仲良く帰ってるところを目撃して、過敏性大腸の発作を起こしてトイレに駆け込むような青春にもきゅもきゅ感は無縁でした。
…すみません。モテない女ってこれだからだめですね。へっ。

 「のだめ」はマンガの方に入れ込んでいたので、TVは小姑のような気持ちで見ています。でも結構笑わせてもらっていますよ。ほほほ。
Posted by モグ at 2006年11月06日 09:09
まいど。

>私の高校生時代はのだめの1年前のシチュー並みに黒くてとぐろを巻いていた

また暗黒女の登場か。ご愁傷様。

>過敏性大腸の発作を起こしてトイレに駆け込むような青春

臭くて緩そうな青春だ。トイレのお掃除はコマメに。

>モテない女ってこれだからだめですね。

しかしモグさんは美人だと、みんな書いてたよ。モテモテだったんじゃないの〜〜。ヒュ〜ヒュ〜。

>TVは小姑のような気持ちで見ています。

嫌な女。

>でも結構笑わせてもらっていますよ。ほほほ。

益々嫌な女。ってのは冗談で、読んでいただいて、ありがとうございます。
寒くなりましたね〜。
ダイエットは寒くて頓挫中です。また再開せねば…。
Posted by sand at 2006年11月06日 15:39
こんちわぁです。超短篇小説会からやってきました、たまごです。
ちょっと、ここを散策させてもらったんですが、私の趣味?とはかけ離れているので、話についていけません。(ごめんなさい)

で、この「10mの想い」本当に良かったです。
甘酸っぱいっていうの伝わりますし、前に読んだお話しとがらりと雰囲気が違うので、こういうモノもお書きになるんだと思いました。
本当は読みながら、うるうるしてました。

PS
sandさんって大人の人だったんですね。なら、あの同タイとかのお話しが深いってこと納得しました。
Posted by たまご at 2006年11月14日 13:56
こんちは。
こちらにも来ていただいて、ありがとうございます。
そうそう。大人なんです。ってかオッサン(^O^)
このブログは40歳くらいの洋楽ROCKが好きな人が集っているんですよ。ちょっと偏屈者が多いかも?(^O^)

私、たまごさんって男性の方だと思ってたけど、女性の方なのかな?今、HP拝見して、そう思いましたが。ま、そのうち分かるでしょう(^O^)

どうも、このお話し気に入って頂いて、ありがとうございます。(偏屈者の)大人達には不評だったんで、若い人が集まる短編小説会に投稿して感想を聞いてみたかったのです。
コメント頂いて感謝しています。また、こんな作品を書けたら投稿してみますね。

たまごさんの新しい作品が投稿されているようですね。明日、読ませて頂きますね。
ではでは。
Posted by sand at 2006年11月14日 18:17
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