2006年11月06日

竹輪学

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 もうすぐ小宮の命日がやってくる。

 オイラは酒を飲んでいる。酒瓶の横には小皿に盛られた竹輪。
オイラは今夜も竹輪を学ぶ。そして小宮を思い出す。

 小宮と出会ったのは、オイラが学生だった頃。オイラはバイトに明け暮れていた。そして小宮は、そこにやってきた。その職場にやってきたんだ。

 小宮は長身だった。そうだな185cmはあっただろう。ガッチリした体格でシャープな顔立ちをしていた。良い男だった訳だ。男が羨むほどにね。

 小宮は無口だったが切れ者なのは、すぐに見て取れた。ヤツは手際が良かった。最初のその日の内に大方の仕事は覚えちまった。
 オイラはヤツが気に入らなかった。ああ。ヤツは抜け目無い男だ。ヤツの目の奥に潜む青白い光を見てみろよ。ヤツは何かやれる男だ。誰にでも、それが分かった。
 それがオイラには気に入らなかった。オイラには、そんな物は何もありゃしねぇ。

 すぐにヤツは頭角を現した。男も女もヤツの虜になった。当然だ。ヤツは頭が切れて、要領良く話を纏めた。勤勉で愚痴もない、喧嘩も強い。そして、誰よりもタフだった。
 でもな。オイラには関係がない。オイラはオイラのペースでやるさ。

 オイラが小宮を受け入れたのは、職場の飲み会の夜の事だった。

 オイラは小宮の向かいに座った。偶然だった。偶然、オイラは小宮の竹輪学を目にしちまった。そして、その夜から、オイラはそいつの虜になった。

 オイラは小宮の一挙一動から目を離さなかった。オイラと小宮を隔ててる物は何だ?オイラは、そいつが知りたかった。

 小宮はビールを飲んだ。オイラもビールを飲む。
小宮の隣に座った男が小宮に皿を回した。皿の上には唐揚が盛られている。
小宮は手をかざし、「いや。俺は良いよ」唐揚を断った。小宮は唐揚が嫌いなのか?
 だが真相は違った。

 小宮は上着のポケットから竹輪を取り出した。オイラはそれを見て唖然とした。
どうして竹輪を持っている?隣の男もそれに気がついたようだ。隣の男は驚いた様子で小宮に尋ねた。
「お前、竹輪なんか持って来たのか?」

 小宮は答えたね。ああ。今でも覚えているよ。最高にイカしていた。
「俺は、竹輪で酒を飲む。俺が決めた事だ。いいか。男はな。酒の飲み方を自分で決める必要がある。決して例外などない」

 オイラは震えたね。その瞬間、オイラは小宮に惚れた。小宮がオイラの生きる指針になった。

 小宮はその夜、竹輪以外の物を一切口にせずに飲み屋を後にした。
オイラは、そんな小宮の背中に男を見た。本物の男に巡り合ったんだ。

 その日から、オイラの小宮への態度は豹変した。オイラは小宮に接近し、ヤツの懐に飛び込んだ。小宮は歓迎してくれたね。ヤツはケチな男じゃなかった。

 オイラは親しくなった小宮を自室に招待したね。ヤツに教えを請うために。
オイラは小宮の前にビールを並べ、冷蔵庫に買い置きしていた竹輪を置いた。
ヤツは、すぐに気がついたね。勘の良い男だ。

「お前、竹輪を学ぶつもりか?」小宮は、すかさず聞いた。ストレートな男だ。

「ああ。オイラ、あんたみたいに成りたいんだ」オイラは率直に答えた。

小宮は何度か、うなずいた。多分、ヤツにはそれが分かっていたんだ。

「お前、レコード一杯持ってるな。何か厳しいヤツかけてくれよ」小宮は意外な事を口にした。
「厳しいヤツ…」オイラは迷った末にWaterboysの『Savage Earth Heart』に針を落とした。

Waterboys.jpg
The Waterboys / Waterboys

 小宮は目を閉じて少しの間、耳を澄ませた後、こう言った。
「良いだろう。合格だ。お前に竹輪学を授けよう」

 その日から、竹輪学の習得の日々が始まった。オイラは、竹輪で酒を飲みながら小宮の話しを聞き続けた。オイラは少しずつ男になって行くのが実感出来た。
竹輪学とは真の男の姿を説く学問だ。
 ただ、それ以上にオイラを幸福にしたのは、小宮と酒を飲める楽しみだ。
オイラは心から小宮を慕っていた。



 小宮の死はあっけなかった。
そうやってオイラが竹輪を学び始めて、半年も経たない、ある日。
小宮はユンボとトラックに身体を挟まれて死んじまった。

 オイラの頭ん中は、真っ白になっちまった。
あんな男が死ぬなんて。オイラはこの世の全てを呪った。

 だが、オイラには、受継ぐべき物が残されていた。
オイラは、そいつに気がついた。小宮が残したものをオイラが受継がねばならない。

 オイラはまた、竹輪を学び始めた。かって小宮が一人で学んだように。

 オイラは今夜も酒を飲んでいる。そして竹輪に語りかける。
「厳しいヤツをオイラに聴かせてくれないか?」
部屋の隅に置かれたラジカセからMike Scottの引き攣った声が聞こえてくる。

「なあ小宮。オイラは今夜も竹輪と一緒にいるよ。そして厳しい厳しい世界に生きているよ。聞こえるかい?」
 
 オイラの声は小宮に届くかな? 


posted by sand at 18:04| Comment(1) | TrackBack(0) | コラム・食い物 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
これ好きだな〜。なんか阿部寛を思い描いて読んだのでなお良かったです。
sandさんの脳内映像が高倉健とかの場合は、お許しください。

私、「キビしい音楽」って言われたら、何かけるかしら?PILやジョイデビじゃ単にコワイしな。ポップグループやキリングジョークじゃ単にキタナイしな。U2のファーストは最初キビしい感じがして好きだったんですが、2枚目と3枚目で「なんだ、ただの熱血か」と思ってしまった。それで1枚目の評価も揺らいでしまった。でもそれ以降聴いてないので、もしかしたらまた評価変わるかもね。
Water Boysって知ってるような知らないような、でした。聴いてみたら聴き覚えがありました。いいっすね。
Posted by ショコポチ at 2006年11月07日 19:57
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