2006年12月03日

叫び声の人・曲がり角にあった10枚(そのD)

walls and bridges.jpg
John Lennon / Walls and Bridges

 まだ10代の頃、それまで聴いてきたミュージシャンの中から3人だけを選んで生涯この人達だけを聴き続けて行こうと決めた。この3人さえいれば、他は全て消えて無くなっても良いとさえ思った。その3人とは、Bob Dylan、David BowieそしてJohn Lennonだった。
 さらに当時の私にとって(今も基本的には同じだが)John Lennonという人は『叫び声の人』だった。
John Lennonとは「Twist & Shout」であり「Dizzy Miss Lizzy」であり「Bad Boy」であり「I Am The Walrus」であり「Yer Blues」であり「Come Together」であり「Don't Let Me Down」であり「Cold Turkey」であり「Instant Karma! (We All Shine On)」であり「Gimme Some Truth」であり「Power To The People」であり「Mother」であり「Well Well Well」であり「Woman is the Nigger of the World」であり「Meat City」であり「Nobody Loves You (When You're Down And Out)」 であった。

 10代の思考は極端に短距離走向きの思考でしかなく、その3人が全てだという時期は、瞬く間に過ぎ去ってしまった。だが、ある一時期の間、私はDylanとBowieとLennonとの蜜月を過ごした事になる。毎夜、Lennonの言葉に真剣に耳を澄ました。その歌詞の一言一言を噛み締めるように目で追って行った。そのキラメクようなサウンドに身体を震わせた。そして何より私を捕らえて離さなかったのは、Lennonの叫び声にあった。叫んだ瞬間にボロボロと声そのものが壊れ落ちて行くような、ひどく粗野で頼りなく孤独な叫び声だった。叫べば叫ぶほど孤独へと陥って行く不可思議な声だった。
 私はLennonの叫び声を聴くと、ある特定のキーワードを入手したような気持ちになれた。ある特定の人だけが知り得る「生きる理由」とも呼べるものだと感じた。
だが、それは全て幻想だった。若く未完成な日々が産み出した砂上の楼閣だった。
それと言うのもLennonの叫び声が未完成だったからかもしれない。いつも、どこかが欠けていて完成には至る事はなかったような気がする。もちろん、最上級の賞賛の意味で。かって、そして今に至るまで、Lennonの叫び声には老成とは無縁の永遠の若さが宿っているのだった。

 結婚して子供が出来て、私にはLennonの叫び声が必要ではなくなった。DylanとBowieはいつも通りに聴く事はあってもLennonを聴く事は加速的に減って行った。
私は知らず知らずのうちに老成へと向かおうとしていたのかもしれない。

 今、40歳を越えて、私はその老成と対峙しているような気がする。「老い」と言う難敵を前にして、どうにも腰が引けてしまっている。「下り坂」が怖くなった。力を失う事が怖くなった。一人では生きられなくなる事が怖くなった。爺さんになって無力になる事が怖くなった。

 今の情けなくブザマな中年の私には、Lennonの叫び声が眩しくて仕方が無い。私にもう一度、叫ぶ力が残されているのだろうか?もう一度、裸になって走り回る気力が残されているのだろうか?そして私には、まだどこかに「若さ」が残されているのだろうか?

 Lennonの曲を一曲だけと問われたら、私は迷わず「Nobody Loves You (When You're Down And Out)」を選ぶだろう。
Walls and Bridgesに収められた物悲しいバラードだ。だが、ここにも叫び声がある。終盤のブレイクの後、飛び切りピュアで激しく切実な叫び声を聞く事が出来る。
 胸を捕まれるような孤独な叫び声だ。あの頃も今も同じ気持ちで、それを聞いている。


posted by sand at 17:24| Comment(4) | TrackBack(0) | コラム・音楽 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
sandさんは今折り返し地点じゃない?
もうあと少し踏ん張ってると
今度はるんるんになる事間違いなし!
(経験者は語るです。笑)
そんなときに今度は
レノンが愛おしくなるかもよ!
Posted by evergreen at 2006年12月03日 22:42
こんちは。そうでしたか。
折り返し地点でしたか。なるほど。
どうもアドバイスありがとうございました。

最近、どうも沈んでて、いけません。毎年、冬は駄目ですね。冬季うつ病とか言うんだっけ。
悪い事ばかりじゃないんだけど、どうも気分が晴れないですね。ま、元気だします。

それから名曲『Hey Bulldog』が抜け落ちてました。ここで追加したい。
Posted by sand at 2006年12月04日 15:33
私もジョンのソロは、若い頃ある短期間だけ集中してハマった時期があって、それ以後そんなに聴かなくなっちゃいました。
そう言えば、もうすぐ命日ですよね。
Posted by PTR at 2006年12月05日 01:36
こんちは。もうすぐ命日ですね。
毎年、命日に何か書こうと思ってたんだけど書けないまま過ぎてしまったので、今年は早目に書きました。

12月はジョンの月ですよね。
Posted by sand at 2006年12月05日 16:46
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