2007年01月10日

白い紙飛行機を飛ばすように、寒い朝に白菜の漬物を切ることについて

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Neil Young & Crazy Horse / Zuma

 冬の朝、私は台所に立ち、白菜の漬物を切ろうとしていた。

 ピムは、キャビネットを開けて、パパが大切にしている飛行紙を取り出した。飛行紙は目が痛くなるほど、白く光輝いている。「クソ白過ぎ。クソ眩しい」ピムはブツブツ文句を言いながら飛行紙を折って行く。飛行紙は堅く、折るのに手間がかかる。「クソ痛てぇ! 指、クソ切っちまった。血がクソ出てきた」ピムは指先を押さえて洗面台に飛んで行く。指を水で洗って絆創膏を貼り付ける。「クソ! 怪我しちまった! クソだ、俺」

 ピムは、絆創膏の指を何とか動かして、紙飛行機を織り上げた。
『ペーパーエアプレインのジョセフィーンです、閣下。これからペーパーエアプレインの使用法をご説明致します、閣下。まず、このペーパーエアプレインは…』ジョセフィーンの流暢な解説が始まる。ピムは忌々しそうに、そいつを遮る。「うるせいクソ! クソ黙ってろ! クソ紙飛行機のクソ野郎! 黙って飛行機を飛ばせクソ! 」

 紙飛行機はピムの意識を乗せて、窓の外に飛び出した。紙飛行機とピムは、庭の芝生の上を舞い上がる。「何処に参りましょう?閣下」操縦士のジョセフィーンはピムの意識に尋ねる。「うるせぇい、クソ! 黙って飛んでろ、クソ! 忠告するな、クソ! 指図するな、クソ! 大人みたいな事言うな、クソ! 燃やすぞ、クソ!」

 紙飛行機はしばらくピムの住む町の上を飛んでいた。ピムは下を見下ろして、散々文句を言う。「クソ食用ウサギのタバランか。クソ、ピョンピョン跳ねやがってクソだ。転べ、クソ」ピムはケケケと笑う。「あ、あっちにはモールス先生がいる」モールス先生はピムの担任女教師だ。「モールス先生の髪の毛はマシュマロみたいだ……」それからピムは黙ってしまう。

 「如何です? 閣下。空の旅は?」しばらくしてジョセフィーンは尋ねてみる。だがピムの返事はない。
 紙飛行機はピムの町を離れて郊外に飛んで行く。広々とした田園風景が見渡せる。
「南の方向に音を作る工場がある。そこに行け」ようやくピムが口を開く。ジョセフィーンは、ホッとしながら進路を南に取る。

 音工場では様々な音が加工されている。衝突音、落下音、衝撃音、生活音、清音などなど。音工場の付近には、そこで働く労働者達の住居が立ち並んでいた。
「2ブロック先の茶色のレンガの家で止めろ」ピムは沈んだ声で指図する。
 茶色のレンガの家には、人の気配がなかった。それからピムと紙飛行機は、そこに止まって待った。まるで時間が静止したように、誰も見動きしなかった。

 空が茜色に染まる頃、一人の女性が、まだ幼い子供の手を引いて戻ってきた。ピムと紙飛行機は空の上から、それを見下ろしている。ピムはグスン、グスンと鼻を鳴らし始めた。それから小さな小さな声で「ママ……」とつぶやいた。操縦士のジョセフィーンには、それである程度の事情が飲み込めた。多分、ピムのママはピムとは別の家族と暮らしているのだ。

「閣下。行きましょう! わたくし何処へでも御伴致します!」操縦士のジョセフィーンは快活な声を上げた。
しばらく黙っていたピムは暗い声でこう答えた。「氷が見たい。白くて大きな氷が見たい」
「了解、閣下。飛び切り大きな氷を見に行きましょう」
紙飛行機は大空に舞い上がった。この大地の果ての果てまで高速で飛んで行く。

 瞬く間に白い氷の世界に着いた。見渡す限り真っ白な氷で覆い尽くされている。汚れた物など、どこにも見当たらなかった。何もかも純粋に輝いている。
「どうです閣下? どんな眺めです?」

「ああ、綺麗だ。クソ綺麗だ。白くて、クソ美しい……」


 台所で白菜の漬物を切っていると、そんな物語が思い浮かんだ。
それは寒い冬の朝のことだった。
posted by sand at 17:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 超短編小説C | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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