2007年01月13日

Andromeda Heights(接続詞の探し方)後編

A Prisoner Of The Past.bmp
Prefab Sprout / Prisoner of the Past

 裏庭に回ると植え込みの影に人が立っているのが分かった。彼女だ。冬の星座に照らし出された彼女は、この世の者とは思えないほど綺麗だった。僕は彼女の横に寄り添った。
 彼女は僕の顔を見ることもなく、夜空を見上げたまま話し始めた。それは彼女の身の上話と言えるものだった。ここでの生活、病気の具合、家族の事、友人の事、学校の事、将来の夢、そして不安……。彼女の話は途切れる事なく続いていった。やはりそれは一方的で会話と呼べる種類のものではなかった。
 僕はしばらく彼女の話に耳を傾けた後、彼女の話の中には決定的に足りない物がある事が分かった。
 彼女の話には『接続詞』が、まったく含まれていなかった。

 彼女の話は、ふわりと舞い降りるように始まり、次第に熱を帯び、感情の昂ぶりを見せ、やがて沈静し、最後は沈み込むように消えていった。それらが波を打つように繰り返された。だが一つ一つの話には、不可解なほどに関連性が見られなかった。彼女の身体からは無数の糸が振り撒かれるのだが、それらはどれもブツ切れで、そのどれとも繋がってはいなかった。それ故、その話が彼女を理解する為ものにはなりえず、益々、不可解な存在へと導いているのだった。彼女は話せば話ほど、理解を求めれば求めるほど、彼女以外の人間との接続が不可能な状態だった。
 彼女の苦悩や不安や夢は、塵のように飛散するだけで、他の誰とも結び付くことは無かった。それは、とても残酷な事のように思われた。

 長い時間、話し続けた後に、彼女は疲れたように無言になった。僕は、いくらかホッとした気持ちで星空を見上げた。夜空に瞬く星々は恐ろしいほど難解な構文を眺めるように複雑に絡み合っているように見えた。もつれ合っているように見えた。
 気がつくと彼女の顔は、僕の胸の中にあった。

 それから彼女は、初めて僕に意見を求めた。
「私の頭の中は壊れてしまったの?」
僕は、その言葉を聞いて胸がカッと熱くなった。
「違うよ! それは違うよ! 君は『接続詞』を失くしただけなんだよ。君も僕の母さんも『接続詞』を見失っただけなんだ。そして、それはきっと見つかるよ! いつかきっと見つかるよ!」僕は、僕の胸の中で震えている彼女に、そう言った。でも、それは真実じゃない。真実は、そんなにロマンチックでも夢見心地でもない。彼女はシリアスな病気を抱えているんだ。残酷なほどに彼女の一生を食い尽くそうとしている凶悪な病気をだ。彼女も彼女の家族も、その重みを一生背負い込んで生きていくのだ。僕の母が、そうであるように。

 それでも僕は、それを信じたかった。彼女や僕の母が見失った『接続詞』が、この星空の中に紛れ込んでいる事を。この入り乱れた星屑の中で見失ってしまった事を。
そしていつか、この星空の混乱が解けた時、それは彼女たちの元へと返されるのだ。

 その時、それは僕らを堅く結びつけ、『そして』

 

☆長い!読むのは辛い。書くのは楽しいんだな〜これが。興味のある方だけでも。
posted by sand at 18:24| Comment(3) | TrackBack(0) | 超短編小説C | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんにちは。半年前くらいにコメントした者です。欠かさず読んでますよ。
今日、誕生日なんです。祝ってください。ケイトブッシュあたりで
Posted by しゅん at 2007年01月14日 19:42
こんばんは。
ちょっと長かったけど、全く読みづらくはなかったですよ。

以下、ひとりよがりな意見と感想に過ぎませんが…
ずっしりとベースになる体験があると、「分かっている」人の側の口調になってしまう場合があります。でも、この話を読んで、そういうところは全くなかったです。読み手にも見えやすい世界を提示してくれて、そして、どこにも嘘のないフィクションを紡ぎ出していると思いました。
今年も好調ですね。
超超短編もロングサイズ長短編も楽しみにしています。
Posted by ring-rie at 2007年01月15日 00:57
しゅんさん

お〜覚えてますよ。元気でしたか?嬉しいな〜読んでくれてたんですね。ありがとうございます。
これからもマイペースで書いて行きますのでヨロシク。
誕生日おめでとうございます。まだ若かったですよね。ケイトですか。後で何か書いてみますね。出来は期待しないでください。ではでは。

ring-rieさん

どうも読んで頂いて、ありがとうございます。去年の暮れくらいから短いのを書こうと思ってまして。
他所の小説サイトを、いろいろ読んで回りましたが、やはり3000字以内じゃないと読む気がしなくてですね。自分がね。それで3000字以内が最適かな?とか考えまして。
この文は5000字くらいかな?書いてる方は長い方が書き易いんですけどね。ま、たまに長いのも書きますです。

>分かっている」人の側の口調になってしまう場合があります。

なるほど。いつもながら鋭い視点です。アドバイスありがとう。参考になります。さすがです。

>どこにも嘘のないフィクション

深いね〜あんた。気が向くと天才になるからな〜。深いよ、あんた。

とにかく急に知的になってドギマギするけど、今後もヨロシクね。それにしても、深いわ、あんた。(こればっか)
Posted by sand at 2007年01月15日 17:25
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