2007年01月17日

Hammer Horror(燃焼)

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Kate Bush - Live At Hammersmith Odeon

 その窓の向かい側に何本もの煙突が立ち並んでいるのが見えた。どの煙突からも真っ黒な煙が、灰色の空に向かって高く高く立ち昇っている。私はそれを彼女の部屋のブラインド越しに眺めていた。

 通りに目をやると車は一台も通ってはいなかった。ただ、タキシードに蝶ネクタイの紳士が砂袋を抱えて交差点を渡っているのが見えた。彼は重そうに何度も砂袋を持ち替えている。砂袋の、どこかが破れているようで彼の通った後には細い砂の線が鮮明に引かれている。
 私はブラインドに顔をくっつけて、その砂の線を目で追って行く。

「砂売りね」いつの間にか、彼女は私の横に立っていた。
「あなた。最近、砂を買った?」彼女は窓の外を眺めながら私に聞く。
「いや。買っていない」

「そう。私は先週買ったわ。とても上質よ。どう? 試してみる?」
「ああ。そうだな」私は彼女の誘いを受ける。
 彼女は、私の手のひらに一握りの砂を注ぎ入れる。砂は手のひらを通って身体の奥深くに沈み込んで行く。身体の奥をサラサラと音を立てて流れ落ちる。やがて内臓のあちこちに降り積もって行くのが分かる。
「良い砂だ」
 私は、久しぶりの砂の感触を味わう。彼女は後ろから覆い被さるように、両腕を私の身体に回す。湿った息を耳元に感じる。彼女の吐く息はネットリと濡れていた。

 彼女は淫らな姿で、私を導いた。私は手持ちの理性をカットグラスの中に投げ入れ、彼女の甘い蜜を湛えた花芯へとギシギシと軋みを上げる私自身を突き抜いた。彼女の陰部からジョブジョブと湿った砂が零れ落ちた。それは抜け落ちた浴室の毛髪のように行き場も無くベッドシーツの上を這い回った。彼女は幾度となく絶頂に達し、苦悶の声を上げた。
『ぬおおおおおおおぅぅ……ぬぬぅぅぅぅぬぅぅぅ』

 射精した後、私は、いつしか眠りに落ちていた。
目を覚ますと私は彼女と並んでベットの上に寝ていた。彼女は横でタバコを吸っている。強いメンソールの香りがツンと鼻を刺激する。
 彼女の胸の上に乗せられたガラスの灰皿は、照明の光を反射してキラキラと輝いた。外は、もう日が落ちてしまったようだ。窓には陰鬱な暗闇の姿がブラインドの狭間で見え隠れしている。

 私は彼女の左耳に気を取られる。
それは、まるで綿菓子のようにフワフワと頼りなく儚い存在に見えた。私は、そばに置いてあったライターで彼女の左耳に火をつける。左の耳は、青い炎に包まれて燃え上がった。
 彼女は、少しだけ驚いた顔をしたが、その後『ふん』と鼻で笑いタバコを吸い続けた。私は次第に燃え落ちて行く彼女の左耳を眺めていた。青い炎は、粉々に砕け散ったガラス窓のように美しく、胸を強烈に締め付けられるほど切なかった。
 やがて青い炎は力を弱め、この世の終わりを告げるように侘しく消えてしまった。私はすすり泣くように、その炎の終焉に想いを馳せる。

 彼女は左耳の燃えカスを、ちょんと摘むとガラスの灰皿に投げ入れた。
「おしまい」彼女は冷たく笑って言った。

 私はベットから立ち上がると「どこにある?」と彼女に聞く。
「チェストの上から2段目」彼女は答えた。
 私は引出しを開け、中から真新しい左耳を取りだし彼女に差し出す。彼女は私の手から左耳を摘み上げ、元の場所にソッと差し入れる。

「どう? どんな感じ?」私は新しい左耳を見つめながら聞く。
「うん。良く聞こえるわよ。良い感じ」彼女は満足そうに、うなずいている。

 何もかも腐ってしまった。世の中も。人も。
私は、彼女の新しい左耳に熱い舌を這わせる。



☆昔書いたのを投稿用に加筆しました。今回のテーマは『燃焼』でした。
↓おまけ

Kate Bush: Hammer Horror (Hammersmith)
posted by sand at 16:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 超短編小説C | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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