2007年01月22日

ドライブが終わる頃

The Cars - Drive


 最後の学生生活も今頃(1月末)になると、みんな就職先も決まって「さぁ研修に行って来るよ。まだ働きたくないけどね」なんて時期になる。私なんぞ実力はないけど要領だけは良かったので、前の年の夏前には内定を貰っていた。変わり身が早いって言うか、手のひらを返すと言うか。なにしろ私は若者が馴染めなくて、とっとと働きたいと思っていたから。

 当然は、そんな私を友人達は快くは思わなかった。彼らはまだ会社訪問も始めていなかったから。「ったく、抜け駆けしやがって」「くそ面白くねぇ男だよ」とかね。田所君もそんな一人だった。彼は400CCのバイクに乗って暇があれば長距離のドライブに出かけていた。彼は誰よりも私を嫌った。それまで親友と呼んで良かったのに。
 
 「いいか。俺はお前みたいな大人面した男が大嫌いなんだよ! 俺は誰にも媚びないよ。誰にも尻尾なんて振るつもりはないんだ!」彼は彼の信念に従ってドライブを続けた。

 だが夏が過ぎ、秋が深まる頃になると、仲間内から一人、また一人と次第に就活で内定を貰うヤツが増えてきた。年が変わる頃には、とうとう就職先が決まらないのは田所君一人になっていた。今度は誰もが田所君を哀れみの表情で眺めるようになっていた。それでも彼はバイクにまたがってドライブに出かけた。執拗に就職を拒み続けた。私は彼が哀れでもあり、うらやましくもあった。
 リクルートスーツに身を固めて研修に向かう私の横を、彼はバイクに乗って派手な騒音を撒き散らしながら通り過ぎて行った。
 春先に我々は卒業し解散した。

 次に田所君に会ったのは、その年の夏の事だった。
彼はまだバイクに乗っていた。だが、そのバイクは営業用のスーパーカブだった。
 田所君は、まだ馴染まない背広を着て、黒いバックを下げて腰も低く「お世話になりま〜す」とヘコヘコ頭を下げながら会社の中に消えていった。私も営業周りの途中だった。私はタバコを吸って、彼が表に出てくるのを待った。

「お〜い。俺だよ。俺」私は会社から出てきた田所君に声をかけた。
彼は額の汗を拭いながらニッコリと微笑んだ。
 近くの喫茶店で彼とアイスコーヒーを飲んだ。

「バイク乗ってる? 大きいの?」私は近況を報告し合った後に尋ねた。
「うん。時間があればね。なかなか乗れないね。ほら、休みの日は一日中寝ちゃうだろ?」
「ああ。俺も。疲れるよね」
「仕事どう?」私は聞く。
「ああ。まあまあだね。まあ…こんなもんかな」
「そうだね。こんなもんかな」

「俺ね。お前がバイク(大きいのね)を降りてて働いてる姿見てね。なんて言うか……えらくカッコ良いと思ったんだ」私は言った。
「ぜんぜんカッコ良くないよ。半端だよ。俺は……」
「いや。いいんだよ。俺には分かってるよ。お前がバイクを降りたのはカッコ良い事なんだよ。お前がバイクに乗り続けたのも、バイクから降りたのもカッコ良い事なんだよ」私がそう言うと彼は下を向いて首を横に振った。

 私も彼もドライブを終えてしまった。でも、それは恥じる事じゃない。
我々は自分の意志で、それを終えたんだ。


posted by sand at 18:03| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
いや〜〜名曲です。何度聴いても泣けてしまいます。カーステのヘビーローテーションなのに毎回泣いてます。涙で信号が見えない。
前にsandさんの、この曲は風俗の女の子に言い寄って毎回振られる曲だっていう解釈を聞いて、もんのすご〜く納得して、もうそれ以外には聞こえなくなってたんで、今回は意表を突かれましたね。

でもいいですよ。しんみりと爽やかで。私は、「カッコ悪い仕事はしたくない」という幼稚な職業観から抜けきれず就職し、そのままいつまでたっても大人になれず、「これが私の仕事だ」と言い切れません。淡々と書いてますが、実は私の最大の痛恨事です。
「ちゃんと生きないと、ちゃんと死ねない」というようなことを、芥川龍之介の小説で読んだような気がしますが、私は化けて出そうな気がしています。そしたらsandさんのとこに行くかもよ〜〜美女のお化けが。ホホホ(^o^)
Posted by ショコポチ at 2007年01月23日 00:11
>何度聴いても泣けてしまいます。

いやあ〜良いすよね。当時より今の方が良く聞えますね。

>涙で信号が見えない。

奥さん、その前に老眼を疑ってください。

>風俗の女の子に言い寄って毎回振られる曲

どんな記憶やねん!わい行った事もないよ。

>「カッコ悪い仕事はしたくない」

幼稚とは思いませんよ。ショコポチさんらしいプライドですよ。私らには真似したくても出来ないこってす。住む世界が違うので、うらやましいとは思いませんが、「都会で踏ん張って生きてるんやな〜」とか思います。尊敬してます。

>「これが私の仕事だ」と言い切れません。

これは、なかなか言えませんね。私はいまだに銀行で店の名前呼ばれると恥かしくて仕方ありません。もっとちゃんとした店にしたいな〜とその時は思いますが、銀行から戻ると脱力しています。
ま、ショコポチさんは全国区の仕事も手がけておられるので全く謙遜する必要などないですよ。

>「ちゃんと生きないと、ちゃんと死ねない」

生きてると思いますよ。ちゃんと。女としても人間としても『ええ仕事してまっせ』な状態ですよ。わいはカッコ良いと思うよ。

>美女のお化けが。ホホホ(^o^)

あとは『絵文字が似合わない女』だと言う事を理解して頂ければ…ってウソです。かわいらしいです。
Posted by sand at 2007年01月23日 13:26
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