2005年02月26日

髭の贈り物

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彼女には髭が、はえている。もちろん彼女は女の子だ。
それでも、鼻の下にクルクルと優雅にカールを描いて口髭があった。
そうだな〜、オバケのQ太郎に出てくる小池さんの髪型に似ている。

風に吹かれてフワフワと揺れる口髭は、なんと言うか言葉に詰まるほど、取りも直さず素敵だった訳だ。

5月の晴れた午後に、彼女が散歩に誘いに来る。
僕らは、いつもの河川敷の方向に、ポテポテと歩き始める。

すれ違う人は、男も女も老いも若きも、一人残らず、彼女の髭に見とれてしまう。
まるで魔法にかかったように、ポカンと口を開けて立ち止まってしまう人もいる。
彼女がニッコリ微笑みかけると、彼らは顔を赤らめて足早に通り過ぎて行く。

途中、コンビニに寄って缶ビールを何本か買い込んで川まで歩き続ける。
河川敷の土手を駆け下りると、石のゴロゴロ転がった川辺に辿りつく。

僕は川の水にビールを浸し、大き目の石に腰を下ろす。
サラサラと流れる川音に耳を澄まし、1本目のビールを流し込む。

彼女は、腰を折り曲げて<石>を探している。それが彼女の趣味なんだ。

「どんな形の<石>を探すんだい?」一番最初、僕は、そう聞いてみた。

「ううん。形じゃないのよ。<良い目>をした<石>を探すのよ」それが彼女の返事だった。

以来、石の捜索には参加していない。
僕は、彼女が<石>を探す姿を眺めながらビールを飲み続ける。
それはそれで良いような気がしている。
それが<幸せ>だとか言うと、どうなのかと思うけど、そうなんだ。

やがて彼女は、ハンカチで包んだ<石>を大事そうに手にして僕の所に近づいてくる。
「見つかった?」僕が聞くと彼女は微笑みながら、うなずく。

部屋に戻ると僕はベランダのデッキチェアに腰を下ろして、ビールを飲み続ける。

彼女は、キッチンのテーブルに腰掛け、ハンカチの上の<石>にしきりと語りかけている。

「その<石>、何って言ってる?」僕は彼女に声をかける。

「うん?気に入ったみたいよ。この部屋が」彼女は笑いながら言う。

「ふ〜ん。それは良かった」僕は返事をして、ベランダから見える小高い山を眺める。
吹き出すような緑が光の中に横たわっている。

「この<石>、よく笑うのよ。ご機嫌みたいね」彼女は、僕にそう言う。

「どんな声で笑うのかな?<石>って」僕は彼女に聞く。

「コトン。コトン。って笑うのよ」

窓ガラス越しに、彼女の口髭が揺れているのが見える。それは、かなり大きいはずだ。
多分、僕の人生なんかの何倍も大きい。
posted by sand at 04:23| 超短編小説@ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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