2005年06月05日

暗黒星の秘密D

女は、その日の午後3時過ぎ、事務所の扉をノックした。

「埼玉ネコ探偵事務所は、こちらで?」女は扉を少しだけ開けて、そう聞いた。

「間違いありません。私が埼玉ネコです」埼玉ネコは、机の上に放り出していた両足を床に下ろし、立ち上がりながら言った。

女は、すり抜けるように身体を室内に移し、後手で扉を締めた。

美しい女だった。
スラリと伸びた長い足、しなやかな細身の姿態、白く透き通る肌、流れるような髪、深遠な眼、哀しみを湛えた口元。

埼玉ネコは、幾分の動揺を隠せずに自己紹介した。
「埼玉ネコです。そこにいるのが相棒のアライグマ男。」埼玉ネコは、机に座って拳銃の手入れをしているアライグマ男を指した。

アライグマ男と女は軽く会釈すると数秒視線を絡ました。やがて女は視線を外した。

埼玉ネコは、女をソファに案内しながら言った「気を悪くしないで。無口な男です。でも頼りになる。誰よりも」

女はソファに腰を下ろすと名前を告げた。
「エリザベスです。エリザベス・ペイジ」
その名前を聞いて、埼玉ネコはたじろいだ。
「ペイジ・・」

「そう。父はジェイムズ・ペイジです。」エリザベスは、下を向いたまま小声で言った。

ジェイムズ・ペイジは、この世界で知らぬ者がいない、政界・経済界の実力者にして名門旧家の当主だった。

「あなたのような人の来る場所じゃない」埼玉ネコは口篭もるように言った。

エリザベスは、それには答えず、バックから封筒を取り出した。
「ご覧になって下さい」そう言って、埼玉ネコの前に封筒を置いた。

封筒には一枚の写真が入っていた。

右腕.jpg

「これは・・」埼玉ネコは驚いた。

「右腕です。肩から切断された人間の右腕です。先日、私の家に送り付けられた物です」
エリザベスは顔を押さえて震える声で、そう言った。

腕には、マジックか何かで直接文字が書きつけられているのが見えた。
「何か字が書いていますね・・読めないな」埼玉ネコは写真を凝視しながら言った。

この右腕は左腕を欲しがっております。あなたの左腕はちょうどよい。色も形もちょうどよい。
そう書かれています。エリザベスは声を震わせながら言った。

「狂っている」埼玉ネコは胸の奥からこみ上げて来る物を感じながら吐き出すように言った。
「もう1箇所。紋章のような物が描かれていますね。」

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posted by sand at 04:37| 連作小説・暗黒星の秘密 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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