埼玉ネコは、その言葉の意味を考えていた。
<暗黒星>とは何か?それは、今もって謎だ。
1.伝説のアキレスの戦いで魔術師ロイ・ハーパーと魔獣ケラウズランブラを討伐した超自然的で莫大な力を持つされる物体。四聖人の血族に継承される<星を継ぐ者>の左腕に<暗黒星のカケラ>が宿り続くように呪文をかけたと言われている。
2.四家の創始者が形作ったとされる、金を産み出す錬金システムの総称。
一説には裏金融とも隠し鉱山とも犯罪を含む裏組織とも言われている。
3.もしくは、それ以外の全く違う物。
Funkadelic婆は、埼玉ネコに言い聞かせるように話をした。
「いいか。良く聞け。これから起こる事は、他ならぬ、お前を探す事になるだろう。
お前自身を探す旅だ。
人は、常に自分を探す旅を続けている。人生とは、自分がどこから来たのか。自分が誰なのかを探し求める事なのじゃ。
わしは、この歳になっても自分が誰なのか?今の自分が本当の自分なのか?確証がないのじゃ。
それは若い頃よりは分かる事も多い。それでも霧が晴れるようには断定出来ないのじゃ。
いいか。しっかり前を向いて運命を受けとめるのじゃ。決して逃げては、ならぬぞ。
わしに言える事を、もう一つだけ教えてやろう。大切な事じゃ。
お前の、ひ・・・・」
<Funkadelic婆>は、口を開きかけて、突然、痙攣を起こすように立ちあがり、テーブルに、うつぶせに倒れ込んだ。
婆さんの背中には、ブスブスと音を立てて血が広がっていた。サイレンサー付きの小銃だ。
裏口から、誰かが逃げる物音が聞こえた。
「後を追うんだ!」埼玉ネコは、横に座って話しを聞いていたアライグマ男に叫んだ。
アライグマ男は、モーゼルをホルスターから引き抜いて、裏口に飛び出して行った。
「おい!婆さん大丈夫か?」埼玉ネコは、<Funkadelic婆>を抱き起こした。
しかし<Funkadelic婆>は、すでに息絶えていた。
埼玉ネコは<Funkadelic婆>を抱きしめて叫んだ。
「婆さん、何を知ってるんだ!俺は、どこから来たんだ!俺は誰なんだ!教えてくれよ。」
どれだけ待っても、婆さんからの返事は返って来なかった。
埼玉ネコは<Funkadelic婆>の遺体から首飾りを離した。そこには奇妙な彫り物がほどこされていた。

一つは見覚えがあった。ペイジ家に送り届けられた右腕に描かれていた紋章と同じ図柄だ。
外からクラクションの音が聞こえた。アライグマ男の車だ。
「悪いな婆さん、デリカシーのない男なんだ」
埼玉ネコは、ドアの前で振り返ると<Funkadelic婆>の遺体に小さく声をかけた。
「じゃ、もう行くよ。
婆さん・・俺は立ち止まらないで生きて行くと決めたんだ。どんな事があっても決して立ち止まらないよ。」
埼玉ネコは、ベレッタをホルスターから引き抜き、ドアを蹴破って外に飛び出した。
アライグマ男が、愛車トヨタ2000GTを横ずけしている。
「どうした?」
「乗れ!車で逃げた。後を追うぞ!」アライグマ男は、怒鳴った。
「OK!相棒。俺をこの世の果てまで連れてってくれ!」埼玉ネコは、叫びながら車に飛び乗った。