2007年07月05日

ウィノナ・ライダー式ノコギリ

urii.bmpnoko.jpg

 金物屋の店主・篠田は、カウンターの上に4本のノコギリを並べて、こう言った。
「これがドリュー・バリモア式、これがベネロペ・クルス式、こいつがキャメロン・ディアス式、そして、これがウィノナ・ライダー式だ。さあ、どれを選ぶかね?」
 それから篠田は気味の悪い笑い声を付け加えた「シ、シ、シ」

 夏が来て僕は寂しかった。いや、正確には春も秋も冬も寂しかった。でもでも、夏の寂しさは、その比ではなかったのだ。僕は孤独で寂しくて、いつもいつも今にも泣き出しそうだった。
 僕は今年で40歳になる。

 僕の唯一の趣味は、自宅の庭木の手入れだった。この家は事故死した父さんと母さんが僕に残したものだった。僕はこの広すぎる家に一人で住み、スーパーの鮮魚売り場で働いていた。職場の男達は僕を間抜けだと馬鹿にした(実際、僕は頭の回転が遅かった)。そして女達は、あの人は真面目な人だからと決めつけた(真面目な人とは、なんと窮屈な存在なんでしょう)。僕は、どこにいても人から少しだけズレていた。そして歳を取ると、そのズレは少しずつ大きくなるような気がした。

 先日のこと。僕は樫の木の枝を落とそうとして、使い慣れたノコギリを折ってしまった。もう20年も使い込んだ『メリル・ストリープ式ノコギリ』だった。僕は酷く落胆してしまった。この『メリル・ストリープ式ノコギリ』は買った当初は繊細な切れ味だったが、歳を重ねるにつれ大胆でダイナミックな切れ味を見せるようになった。僕はその安定感を心底信頼していたのだ。僕は忌まわしい夏を前にして、もう一つ大きなトラブルを抱えてしまった。僕は父さんと母さんにお祈りして、そして泣いた。

「どう違うんです? この4本のノコギリは?」僕は目の前に並べられたノコギリを注意深く見つめながら、店主の篠田に聞いてみた。
篠田は妙な形の鼻髭を上下に震わせてから答えた。
「長所は、それぞれだ。どれも素晴らしい切れ味を持っている。それぞれが個性的で比べることなど出来ない。だが、短所はどれも一緒だ。それは、どれも使いにくいと言うことだ」篠田はそういった後、やはり「シ、シ、シ」と笑った。

 僕は、比較的線の細さが感じられる『ウィノナ・ライダー式ノコギリ』を買い求めた。

 自宅に戻ると樫の木に向かって、『ウィノナ・ライダー式ノコギリ』を試してみた。確かに、それは篠田が言うように使いにくかった。と言うより、とても不安定で今にも折れてしまいそうだった。試行錯誤の末、僕はそのノコギリのコツをつかんだ。僕はコントロールすることを止め、そのノコギリを自由にした。自由になった『ウィノナ・ライダー式ノコギリ』は、まるで妖精のように幹の周りを飛び回り、見事な形にその枝を切りそろえた。…ように感じた。

 僕はそのノコギリを気に入った。いや、もっとドキドキした気持ちになった。僕は僕だけの物を手に入れた。そんな気がした。

 『ウィノナ・ライダー式ノコギリ』はリビングの写真立ての横に置いた。僕はソワソワした気持ちで何度も彼女に視線をおくった。僕は一人で食事を取りながら、誰かの存在を感じていた。それは、とても素敵な人だ。僕は父さんと母さんが死んで以来、ずっと絶えていた感情を感じ始めていた。僕は狂ってしまったのかもしれない。でも僕はその感情を逃がしたくはなかった。
 僕は『幸せ』な気持ちが欲しかった。ずっと夢見てきた。ずっと、ずっと…。

 夜。僕はリビングの扉を開け、バルコニーに下り立った。月だ。なんて美しい月なんだろう。僕はその夜の月の美しさに打たれた。
 リビングで誰かが僕を呼んでいる。…ような気がした。『ウィノナ・ライダー式ノコギリ』が僕を呼んでいる。…ような気がした。
 僕はリビングに舞い戻ると彼女を連れてバルコニーに出た。ノコギリの歯は、月明かりを浴びて、黄色い幻想的な光を放った。僕はハッと息を呑んだ。奇跡だ。奇跡が起こった! 黄色い光を放つノコギリの歯に美しい女性の顔が浮かび上がった。…ように見えた。

 僕はノコギリの歯に宿る、素敵な女性に向かって手を差し伸べた。ああ、僕は幸せになれる。幸せになれるんだ。ありがとう。

 僕は父さんと母さんに心を込めて祈りを捧げた後、ノコギリの歯に唇を寄せて泣いた。

 黄色い光の中の女性が僕に手招きする。僕は彼女言う。
「ああ。もうすぐ行くから。遅れないで行くよ。それから踊ってくれるかい? 僕なんかと踊ってくれるかい?」


Winona Ryder − When We Dance(Sting)
posted by sand at 18:07| Comment(5) | TrackBack(0) | 超短編小説C | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 血が欲しいといって泣いている刀のようです。まるで百鬼丸だ!
Posted by ITORU at 2007年07月05日 18:43
すみません、名前忘れてました↑
書かなくても誰か分かるでしょうけど(笑)
Posted by ring-rie at 2007年07月08日 15:21
ウィノナ・ライダーはよく知らなかったです。どキレイな女性ですね。しかしこの写真のほうは、大昔のいしだあゆみに似ているぞ。

『メリル・ストリープ式ノコギリ』のほうが、私の頭にはすんなり入りました。彼女はタチの悪さも知性も全部持っている気がする。羨ましい女性です。キャメロン・ディアスはチェーンソー向きじゃないですかね。
などと言って、私は刃物が苦手なんですけど。
Posted by at 2007年07月08日 15:23
いしだあゆみ!…確かに似てる〜!(爆笑)

いやはや、いかにも使い勝手の難しそうな一筋縄では行かぬ色っぽいノコギリたちですな〜。こんなノコギリに囲まれたらとっても怖くて甘い思いが出来そうです。うしし。

私は女性のルックスではビョーク最強と思っています。あの土着的な少女性とおばはん性の同居がたまらない魅力で、ホントに好みなんです。下の卵のかわいいですね。(黄身を〜〜我等に〜〜〜♪も最高v)
ビョークノコギリがあったりしたら、ちょっとした加減で切れたり切れなかったりして面白いかも知れません。愉しい付き合いになりそうです。

ロックでメーデー。
咄嗟に頭に浮かんだのが「アイアンメーデー」でした。…失礼しました!
Posted by 志穂美 at 2007年07月08日 23:03
ITORUさん

遅れました。すいません。

>百鬼丸だ!

正露丸では?

ring-rieさん

>すみません、名前忘れてました↑

矢印が逆。って言うか書き込みが逆。あなた何者?

>大昔のいしだあゆみに似ているぞ。

おもしろいけど、古いよ。町の明かりが〜♪とても綺麗ね、ヨコハマ〜♪ブルーライト・ヨコハマ〜♪

>彼女はタチの悪さも知性も全部持っている気がする。羨ましい女性です。

ring-rieさんも同じ物持ってますよ〜。も〜素敵なんだから〜(ただし、まったくコントロール出来てない。ある意味野放し。あるいは野獣とか)

>キャメロン・ディアスはチェーンソー向きじゃないですかね。

大阪のオバハンは、えげつないですな。

>私は刃物が苦手なんですけど。

あんたに刃物持たせる方が、大方の男は苦手だと思う。

志穂美さん

>こんなノコギリに囲まれたらとっても怖くて甘い思いが出来そうです。うしし。

うししって、オヤジかい! あるいは牛。

>女性のルックスではビョーク最強と思っています

私は志穂美さんが世界一の美人だと思っています。大仏の前でコンパスになれるとか誰にも出来ません。文具系の美女として正式に認可が下りました(どこが認可を?)

>あの土着的な少女性とおばはん性の同居がたまらない魅力

なるほど、土着的な少女性か。うんうん。そう言えば昭和っぽい顔してますね。

>下の卵のかわいいですね。

あのPV、昔から好きでしてね〜。目玉焼き見るとビョークが思い浮かぶんですよ。

>ロックでメーデー。
咄嗟に頭に浮かんだのが「アイアンメーデー」でした。…失礼しました!

まったく失礼な女。(バカウケしましたが)
では僕も素晴らしいのを、一つ。
「メーデー&バンシーズ」
素晴らしすぎて、クスリとも笑えないでしょ?
では、しつこくもう一つ。
「メーデールワ〜イス〜♪メーデールワ〜イス〜♪かわいい花よ〜♪」
…もういいか。
Posted by sand at 2007年07月09日 17:06
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