2005年07月18日

ペンギン枕

Penguin Cafe Orchestra.jpg

彼らは生きていく為に枕になる事を選んだ。
彼らとはペンギンの事だ。

ペンギン枕は、一年の大部分をペンギンとして暮らす。
彼らがペンギンである以上それは至極当然の事だ。
彼ら(ペンギン)は家庭に設置された専用冷凍庫の中で気ままな暮らしを楽しむ。
餌は使用主から彼らが買い取る。

その費用を捻出するのが彼らの枕としての仕事だ。
ペンギン枕は、蒸し暑く寝苦しい夜に冷凍庫から取り出され、人の枕として使用される。

動物愛護団体は、ペンギン枕が動物虐待だと声高に主張するが、彼ら(ペンギン)にとっては、それは単純に仕事なのだ。彼らは自分の身体を張って、自分の力で生きようとしているだけなのだ。
彼ら(ペンギン)には<飼育>という恩着せがましい拘束手段こそ虐待に思えた。
「<飼育>するくらいなら、元の場所に返せよ。元の環境を返せよ。
今更どうにもならないなら俺らは自分の力で生きていくぜ。」
彼ら(ペンギン)には、そんな意地があった。

冬はペンギン枕にとっては長い休暇だった。彼らは冷凍庫の中でのんびりと気楽な日々を過ごす。
使用主の子供が不意に発熱した夜などに、ペンギン枕は冷凍庫から取り出される。
子供達の頭の下に轢かれ、頭部の熱を優しく取り除く。
フワフワした羽毛で安らぎを与え、愛くるしい笑顔で不安を和らげる。

ペンギン枕.jpg

ペンギン枕が人々から愛され必要とされている理由は、そこにあった。
膨大な維持費を差し引いても余りある価値をペンギン枕は有していた。

彼ら(ペンギン)はプロなのだ。
どんなに無理な体勢を強要されても、彼ら(ペンギン)は決して根を上げなかった。
どんなに邪険に扱われても、彼ら(ペンギン)は人懐っこい愉快なペンギンであり続けた。
どんなに彼ら自身の体調が悪くても、彼ら(ペンギン)は枕になる事を拒まなかった。
彼らは筋金入りのプロだった。鋼鉄のように強い意志を有した。
彼ら(ペンギン)は自分自身の力だけで、この地に踏み止まっていたかったんだ。

夏こそが、ペンギン枕のシーズンだ。
ペンギン枕は毎晩のように冷凍庫から取り出され、お父さんやお母さんの頭の下で夜を明かす。
もしくは子供達に抱きつかれ、幼い寝息を聞きながら朝を迎える。
明くる朝、彼ら(ペンギン)はクタクタになって冷凍庫に戻され、彼ら自身の夜をようやく迎える事になる。

日曜日は寝る暇がない。お昼からビールを飲んで酔っ払ったお父さんの枕となる。
夜は夜で誰かの胸に抱かれる。

ペンギン枕は誰からも愛された。誰もが彼ら(ペンギン)を必要としている。

彼ら(ペンギン)にとっては、それが喜びだった。
ペンギン枕は自分の仕事に誇りを持っている。自分の人生に誇りを持っている。


posted by sand at 01:14| 超短編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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