2007年09月09日

揺れるヘチマは、まるで"気まぐれヴィーナス"なのでありまして。

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★中途半端で気になっていた書きかけを、とりあえず終わらせました。ただ終わっただけです。

「これはな。元々は糸瓜(いとうり)と呼ばれていたんじゃな。それが訛って「とうり」となった。この「と」はな。『いろは歌』で「へ」と「ち」の間にある。それで「へち間」。「へちま」と呼ばれるようになったんじゃな」法事に来た和尚は、俺にそう話してヘチマの種をくれた。
 和尚が帰ると、俺は裏庭の花壇に種を植えた。空を見上げると雨の予感がした。俺は雨の匂いを嗅ぎ、風の音を聞きながら花壇の前に立っていた。

 8月は、記録的な猛暑を引き連れてやって来た。今年の8月が気合が入っていた。まあ、所謂、物事を強引にねじ込むタイプだろうか。皆は8月の暴挙に眉をひそめながら、なんとか、そいつをやり過ごそうとしていた。決して関わりたくないタイプなのだ。

 裏庭のヘチマはずいぶん背を伸ばし、大ぶりの実をつけていた。ギラギラとした太陽に照らされたヘチマは、なんだが余裕ありそうな雰囲気をしていた。単純で直ぐに感情的になる太陽を、せせら笑うかのように、その庭に立っていた。
 俺はクーラーの良く効いたリビングからヘチマを眺めた。そしてビールを飲んだ。ヘチマを眺めていると何故だか耳の穴が痒くなった。俺は救急箱から綿棒を取り出し、耳の穴をコリコリしながら、再度ヘチマを眺めた。そして良く冷えたビールを飲んだ。

 お盆休みの最終日。俺はまだ日が昇る前に起き出して、洗濯機を回した。部屋に掃除機をかけてから庭に出た。8月もこの時期になると夜明け前は幾分涼しい。俺は背伸びして、まだ星の残る空を仰いだ。裏庭をホウキで掃いた後、ホースで水をまいた。大粒の水滴が、ヘチマの実をユラユラと揺らした。そして青臭いキュウリのような匂いが辺りに立ち込めた。もう一つの夏の匂いだ。

 裏庭の木戸が開く音がして、誰かが無断で入ってきた。
「やあやあ。どうもどうも。暑いですな。切ないですな。そんな切な過ぎる僕はヘチマ水を分けてもらう所なのです」一升瓶を抱えたアライグマ男は、俺に断りもなく、用意してきた剪定ハサミでヘチマの蔓を切った。それから切り口を一升瓶に差し込んで、一仕事終わったように額の汗を拭った。

 その後、アライグマ男は、またも無断でズカズカと台所に上がり込み、冷蔵庫を開けてゴソゴソと物色し始めた。俺はホースの水を止めるとアライグマ男の後を追ってリビングに入った。

「やや。この炊飯器の中に冷ご飯が入ってるようです。お腹が減りました。切ないですな。そんな切な過ぎる僕は冷ご飯を分けてもらわなければなりません」アライグマ男はお茶碗に冷ご飯をよそって、モサモサと食べ始めた。俺は冷蔵庫から梅干の瓶を開け、彼の前に差し出した。アライグマ男は涙目でそれを受け取り、嬉しそうに冷ご飯の上に乗せた。
 「切ない。切ない」と彼はつぶやき、何度も冷ご飯をおかわりした。

 俺はレコードラックの前に移動し、桜田淳子さんのシングルを引っ張り出した。『夏にご用心』『気まぐれヴィーナス』『17の夏』『サンタモニカの風』…。夏になると淳子さんの曲が聴きたくなった。もう30年近く前の曲だ。どうして、そんな昔の歌謡曲が聴きたくなるのか?詳細は不明だが、淳子さんの脚が綺麗なのに関係があるのかもしれない。

 今聴くと『気まぐれヴィーナス』の「プピルピププピルア♪」は魔法の言葉のように感じられた。アライグマ男は未だ冷ご飯と格闘している。彼には魔法は無用のようだ。

 『プピルピププピルア♪』俺は魔法の言葉を低い声で陰気にささやく。今年42歳になる中年には魔法がバケツ一杯必要なのだ。俺の周りには魔法でしか片付かない問題が山積していた。

 窓の外のヘチマにも魔法の言葉は届いただろうか? 風が吹いてヘチマの実を揺らし、40男の心までも揺らした。

 台所でアライグマ男が梅干の種を吐き出す音が聞こえた。炊飯器にもご飯茶碗にも冷や飯は残っていない。残ったのは種だけだ。
 まるで役に立ちそうもない。種だけだ。


桜田淳子 気まぐれヴィーナス 動画
この記事へのコメント
 ヘチマ水と秋田美人?自分にとって桜田淳子はなんともとらえどころのない人でした。あのヴィブラートか?
Posted by ITORU at 2007年09月09日 20:17
まいど。淳子ちゃんは最近聴くと良いですよ〜。昔は百恵ちゃんの方が良かったけど。もちろん百恵ちゃんの曲も良いですね。
Posted by sand at 2007年09月13日 17:06
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