2005年08月03日

指切りの代償(時計館のある街A)

You Had It Coming.jpg

<指切り婦人>は、ユックリと玄関に姿を現した。

<指切り婦人>の家は、この街で一番の豪邸だ。玄関だけでも充分生活出きるほどの広さがある。
磨き抜かれた骨董品が所狭しと並べられ、この家の財力を誇示しているようだった。
並べられた品々は、皆、奇妙な形をしていて、グロテスクな化け物が黙って耳を澄ましているようにも感じられた。

玄関に現れた<指切り婦人>は、家政婦の差し出した椅子に腰を下ろした。

<指切り婦人>の頭は、人の手の形をしていてフワフワと揺れているようだった。
手の平にある顔には、どぎついメイクが施されていた。
肌には、ベットリと真っ白いファンデーションが塗り込められ、チークルージュは夕陽を想わせるほど赤かった。
膨れ上がった両目には、つけマツゲが重そうに垂れ下がっている。
鼻はモッコリした団子状で、飴玉ほどの鼻の穴からは激しく風が吹き出している。
唇は赤い煉瓦のように高く突き出し、口を開け閉めするとパフパフと大きな音がした。

「私の時計の調子は、どうだ?」<指切り婦人>は僕に尋ねた。
「順調です。問題はありません」
<指切り婦人>は満足そうに、うなずいた。

「ソニーを探してると聞いた。ソニーなら随分前に帰ったよ。
あの娘は、素晴らしい腕をしているよ。私はこんなに満足したのは初めてだ。
どれどれ、私の美しい歯を見ておくれ」
<指切り婦人>は、僕に向かって歯を剥き出した。
上下の歯は全て、透明なガラス状に透けていた。ソニーは歯の色を抜く事が出きるんだ。
僕はガラスの歯を眺めながら、ソニーの歯磨きへの熱意を感じていた。

「美しい歯ですね」僕はお世辞を返した。
<指切り婦人>は嬉そうに微笑んだ。

「どうもありがとうございます。では、私はこれで」僕はソニーの事が気になって早々に辞去の言葉を伝えた。

「待て」<指切り婦人>は鋭い言葉で僕を引き止めた。

「お前の代償は何だ?私への代償は何だ?
私は、お前に時間をくれてやった。お前は私に何が出きる?
私が望む、何が出きるのだ?」

「明日、あなたの時計を磨き上げましょう。埃一つ残らないように」僕の返答はそれだった。
<指切り婦人>は、うなずいて手の形をした頭を僕の方に差し出した。

僕は、<指切り婦人>の小指の形をした頭と<指きりげんまん>をさせられた。

<指切り婦人>の家を飛び出すと、僕は暗黒のある場所に駆け出した。
posted by sand at 04:21| 超短編小説A | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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