2005年09月17日

Belle & Sebastian型のティー・ポット

Dog On Wheels.jpg

ショウケースの上を小さな毛虫が這っている。僕はティッシュペーパーを片手に表に回る。
毛虫をティッシュに包んで握り潰す。ブチッと音がしてティッシュは緑色に染った。

僕は喫茶店をやっている。
大学生街のちょっと外れ、小学校の向かい側にある小さな店だ。

店には1日中、音楽が流れている。
KinksだったりBadfingerだったりTrash Can SinatrasだったりBill EvansだったりBelle & Sebastianだったりする。

音楽をずっと聴いていたいから店を始めたんだ。それだけで良かった。

裏口のドアが開いて、パン工場から食パンが届く。
配達の叔父さんは僕を見ると、元気な声をかけてくれる。
「おはよう!」

彼は、僕を気に入ってるようで、あれこれと話しかけてくれる。
僕は会話が苦手なので「はい」とか「あはは」とか、つまらない受け答えしか出来ない。
彼は、それでも大きな笑顔で僕を励ます「頑張れよ!」

僕は包みを開けて、今日の3斤食パンをチェックする。
パンは、日によって微妙に違う。
弾力や香りで、その日のパンのご機嫌を伺う。

「今日はフライ物が合いそうだぞ」僕は献立を決める。

店は、ヨシエさんって女の子が手伝ってくれている。
彼女は、僕より二つ三つ若いはずなんだが、僕よりずっとしっかりしている。

「マスター、野菜が高いから、もっと丁寧に使って下さいよ」彼女はゴミ箱を、かき回しながら忠告する。
「マスター、この油、換えるの早すぎますよ」彼女は廃油置き場をチェックしながら忠告する。
「マスター、こんな場所にエロ本隠しても、すぐに見つかりますよ」彼女は、机の3番目の引出しを、ひっくり返しながら忠告する。

The Boy With The Arab Strap.jpg

今日、最初のお客さんは、町内会長の奥様だ。
もう60歳は越えてると思うけど、いつもキチンとした服装で、とても静かにしている。

ヨシエさんがオーダーを聞きに行く。
「いつもので良いですか?」彼女は常連なんだ。町内会長の奥様は小さく微笑んで、うなずいた。

僕は彼女の為に生クリームとフルーツのサンドイッチを作る。
ホイップした生クリームを食パンに塗り、キューイフルーツやパインやバナナを乗せて挟み込む。

サンドイッチの仕込には手間隙がかかる。かなり多くの作業が必要なんだ。
でも出来あがったサンドイッチは、そんな風には、ちっとも見えない。
「全然、手間なんてかけていませんよ」って顔をしている。
サンドイッチの、そんな所が好きだ。
<こだわってる>ように見せないのが<こだわり>なんだ。

町内会長の奥様は、出来あがったサンドイッチを上品に口に運びながら、コーヒーを味わっている。

今、店内に流れているBelle & Sebastianが彼女の耳にどんな風に聞こえるんだろう?
僕は彼女を見ながら、そんな事を考える。

「力を抜いて生きていたい」僕は、いつでも、そう考えている。
でも、それは今より強くなるって事なんだ。
今より、ずっと強くなる必要がある。

Storytelling.jpg
Belle and Sebastian / Storytelling

もうやだ〜(悲しい顔)「カラスウリ」早くもギブアップしました。すいません。目がチカチカするんです。
老眼だな〜。


posted by sand at 18:33| Comment(2) | 超短編小説B | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんにちは。ロックスさん〜ショコポチさん経由で来ました、ぞーいと申します。Belle and Sebastianのジャケ写がこんなにあってはとても素通りすることができず、ちょっと寄らせていただいてます。
もうどうしようも無いくらいベルセバ好きなんです。90年代に入ってちょっとだけ音楽から離れそうになったときにこのバンドに引き戻されました。最近(ここ1週間くらい)またその頃と同じ温度で夢中になって聴いているところなんです。
ベルセバがBGMの喫茶店があったら毎日でも本を持って通います!が、近所にそんな場所は無いので、買ったばかりのiPodにベルセバ詰め込んで普通のお店に行ってます。ちょーっとイメージ違うのですが、私の脳内では素敵な空間に変換されてるので……い、いいのだ!
…人の家で勝手に盛り上がって帰るようで申し訳なくなってきました。す、すみませんm(__)m
Posted by ぞーい at 2005年09月22日 10:28
あ、どうも。どうも。
来ていただいて、ありがとうございます。

ベルセバ、最近知ったんですよ。もう1発でハマちゃいましたね。
最初聴いたのが、Storytellingでしたから、インスト多くて、イーノみたいな心持で聴いてたんですよね。なんか気持ち良いし切ないな。ってですね。
その次ぎにセカンドの「天使のため息」聴いて完全にKOですわ。
これは、泣きますよね〜。ちょ〜〜切ない。初期のスミスとかに似たもの感じしますけど、モリシーみたいに嫌らしさがない(そこがスミスの良さでもあるけど)

聴き始めると、もうダメになりますね〜。良過ぎる。

しかしベルセバ好きが、近くにいるとは意外でした。軟派なイメージだから、好きだとも言えなかった。
話が出来て良かったです。ありがとうございます。


ring-rieさんみたいな脱力ユルユル系信者にも、ぜひ聴いて貰いたいところです。
Posted by sand at 2005年09月22日 12:23
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