2005年09月30日

綿菓子みたいな女の子

Stone Roses.jpg
The Stone Roses / The Stone Roses

彼女の部屋の窓からは、何本もの煙突が立ち並んでいるのが向かい側に見える。
どの煙突からも真っ黒な黒煙が、灰色の空に向かって、高く高く立ち上っている。

通りを見下ろすと車は一台も通ってはいない。ただ、タキシードに蝶ネクタイの紳士が、砂袋を抱えて交差点を渡っているのが見えた。
彼は重そうに何度も砂袋を持ち替えている。砂袋の、どこかが破れているようで、彼の通った後には、細い砂の線が引かれている。

私は窓ガラスに顔をくっつけて、その砂の線を目で追って行く。

「砂売りね」いつの間にか、彼女は私の横に立っていた。

「あなた、最近、砂を買った?」彼女は窓の外を眺めながら私に聞く。
「いや。買っていない」

「そう。私は先週買ったわ。とても上質だったわ。どう?試してみる?」
「ああ。そうだな」私は彼女の誘いを受ける。

彼女は、私の手のひらに一握りの砂を注ぎ入れる。

砂は手のひらを通って身体の奥深くに沈み込んで行く。身体の奥をサラサラと音を立てて流れ落ちる。やがて内臓のあちこちに降り積もって行くのが分かる。
「良い砂だ」
私は、久しぶりの砂の感触を味わう。

それから私は彼女を抱いた。
彼女は何度となく絶頂に達し、喜びの声を上げた。

射精した後、私は、いつしか眠りに落ちていた。

目を覚ますと、私は彼女と並んでベットの上にいた。彼女は、横でタバコを吸っている。
強いメンソールの香りが、ツンと鼻を刺激する。

彼女の胸の上に乗せられたガラスの灰皿が、照明の光を反射してキラキラと輝いている。

外は、もう、日が暮れてしまったようだ。窓ガラスには、ベットに寝そべった私と彼女の姿が映し出されている。

私は彼女の左耳に気を取られる。
それは、まるで綿菓子のようにフワフワと頼りなく淡い存在に見えた。

私は、そばに置いてあったライターで彼女の左耳に火をつける。
耳は、青い炎に包まれて燃え上がった。

彼女は、ちょっとだけ驚いた顔をしたが、その後、フンと鼻で笑ってタバコを吸っている。

私は燃え落ちる彼女の左耳を眺めていた。青い炎は、美しく、胸が痛くなるほど切なかった。

やがて炎は力を弱め、萎むように消えてしまう。
彼女は左耳の燃え滓を、ちょんと摘むとガラスの灰皿に投げ入れた。

「おしまい」彼女は笑って言った。

私はベットから立ち上がると「どこにある?」と彼女に聞く。
「白いタンスの上から2段目」

私はタンスの引出しを開け、中から左耳を取りだし、彼女に差し出す。
彼女は、私の手から左耳を摘み上げて、元の位置にソッと差し込む。

「どんな感じ?」私は新しい左耳を眺めながら聞く。

「うん。良く聞こえるわ。良い感じよ」彼女は満足そうに、うなずいている。

何もかも腐ってしまったんだ。世の中も。人の身体も。心も。

私は、彼女の新しい左耳に舌を這わせる。


posted by sand at 15:26| Comment(0) | 超短編小説B | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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