2005年10月02日

Spirit of Eden

Spirit of Eden.jpg
Talk Talk / Spirit of Eden

キーーンと耳鳴りがして僕は目を覚ました。
目を開けると、僕の目の前に黒いサングラスをした女が座っていた。
女は、見るからに上質の毛皮のコートを脇に置いて、白いセーターを着ている。髪は短くシャープに揃えられていた。細くしなやかな長い足。スッと伸びた背筋、指には節度のある貴金属が輝き、どこから見ても女は、高級感を漂わせていた。ただ・・。

ただ、女の顔には無数の深く切り裂くような皺が這っていた。赤いルージュを引かれた唇に、まとわり着く、その皺は、ゾッとするほどの痛々しささえ漂わせていた。
この女は、一体、何歳なのだろう?

僕は、不信に思って辺りを見回すと、誰も座っていない座席が目立った。何故、この女は、僕の前にわざわざ座ったのだろう?
女は、前を向いているが、どこに視線があるのか、サングラス越しには、つかめなかった。
やがて、女の口が動いた。僕に何かを話しかけているのか?

僕は、イヤホンを外して耳を自由にした。
女の声が、もう一度、聞こえて来た。
「何が見える?」
女は、そう言って、窓の外に向かって顔を振った。

僕は、窓の外に、しばらく目をやって、こう返事をした。
「川が見えます。」

女は、皺だらけの顔をクシャクシャにして、ニッタリと微笑んだ。

女の言葉は、それ以上続かなかった。女は無言で窓の外を眺めている。
列車の発する規則正しい音が、カタン、カタンとリズムを刻む。僕は、窓の外に広がる、大きく曲がりくねった川に視線を戻す。冷たく澄んだ空気の中で、日の光を浴びた水面がキラキラ輝やいている。
白い鳥が、数羽、羽ばたいた。

「おまえは、心の川に降りて、そこに刺さった<棘>を抜く必要がある」
女は、窓の外を見つめたまま、唐突に、そう切り出した。

「心の川?」僕は、小声でつぶやきながら女の顔を見つめた。
女は、ズカズカと僕の中に上がりこんできた。でも不思議と不快な気持ちには、ならなかった。
僕は、この女と、どこかで会った事があるのだろうか?
女は、僕の事を、良く知っているような気がした。
おそらく僕自身よりも。

「人の心には、川が流れている。とても深い川だ。わかるか?」
女の言葉に、僕は首を振った。


posted by sand at 04:01| 超短編小説B | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。