2008年01月02日

砂丘を待つ

Elegy The Nice.bmp
The Nice / Elegy

★超短編小説会12月分の投稿用です。出来が良くなかった。いつものように一発書きだから粗いし。お暇なら宜しく

『後30日。俺は砂丘を待っている』

 俺はゲリロからのメールを読み終わると、軋むベッドから腰を上げ机の引き出しから黒い油性マジックを取り出した。それから、まだ真新しいカレンダーの前に立ち今日から35日目を指差しながら数え始めた。「1・2・3…」
 流し台の蛇口から水が滴り落ち、シンクの底を打った。「トン・トン・トン…」
「…8・9・10・11…」「…トン・トン・トン…」街は、まるで死に臥したように静まり返っていた。俺の口から零れ落ちる数字のカウントとシンクを打ち続ける水滴の音が奇妙な調和を聞かせていた。俺は数字をカウントし続け、指先をカレンダーの上で滑らせた。水滴の音は、雑音を取り上げられた街中に木霊し、俺の中から消え失せた、魂の鼓動を呼び起こそうとしていた。

「……27・28・29・30」
 俺のカウントは終わり、俺の指先はカレンダーの日付の上に張り付いたまま動きを止めた。「…トン・トン・トン…」だが水滴の音は鳴り止まない。俺はその音に置き去りにされる。俺の鼓動は止み、俺は元の場所に放り出される。時を刻まぬ場所に。

 俺は止まった指先が示した日付に黒マジックで丸印を記す。俺はその黒い円を凝視する。その円の向こうに潜むゲリロを追い求める。そしてゲリロを覆い尽くそうとする砂丘のうねりを聞く。

『後20日。俺はマーマレードの川を渡る。空を見ろ。砂丘のうねりが聞こえる。もうそこまで来ている』

 俺はゲリロからのメールをベッドの上で受け取る。俺は凍えていた。震えが止まらない。俺は痩せ細った身体をベッドから引き剥がすように起こし、マジックを手にカレンダーの前に立つ。今日の日付に×印を記す。あの日から10の×印が並んでいた。俺は残りの日数に胸を焦がした。俺はゲリロに嫉妬していた。『ヤツは上手く、やりやがった。俺はと言えば女にも仕事にも見放された。もちろん金にも。俺にあるのは有り余った時間だけだ。それが俺の全てだ』俺は力なく呟く。それから鏡に映る自分を眺める。そこには痩せ細った冴えない男が映し出される。『やあ。調子はどうだい? なんだい。冴えない面してさ。俺はな。お前と組んだのが間違ってたよ。大きな間違いだったのさ』俺は鏡の中の俺に話しかける。鏡の中の俺は気まずい顔をして視線を逸らす。

『後10日。この街の女は猫の面をつけている。どの女も俺のペニスにしゃぶり付き。どの女も俺に陰部を押し当てる。どの女も知っているのさ。俺が砂丘を待っている事をな』

 俺はゲリロからのメールを受け取る。俺は這うようにカレンダーの下に行き、震える手で日付を塗り潰す。俺は何日も食事をしていない。いや、それは違う。食べたくないだけだ。食事をしょうとしないだけだ。
 俺はゲリロを憎んでいる。俺はヤツに出し抜かれた。ヤツは俺を騙し、痛めつけ、見下し、哀れみながら砂丘に乗ろうとしている。俺はヤツに復讐を誓う。俺はこの手でゲリロを葬り去る。
 鏡に近づくと中でゲリロが笑っていた。俺を見下し、蔑み、嘲笑っている。俺は拳を鏡に叩きつける。鏡は砕け散り、俺の拳に深い傷を残す。俺は拳を血に染めて、ベッドに倒れこむ。

『後1日。どうだい。空は砂に覆われた。見渡す限り、砂の空だ。砂丘は俺を待っている。いよいよ明日の朝だ。さよなら。お前の幸運を祈っているよ。空に広がる砂丘の上からな』

 俺はゲリロからのメールを受け取った。だが身動きが出来ない。俺は衰弱し、意識が朦朧としていた。俺の腕や足は、まるで俺の言う事をきかなかった。俺は切り捨てられた丸太のようにベッドの上に投げ出されているだけだった。
 だが、朦朧とした意識の中にあっても、ゲリロへの恨みが俺を突き動かそうとしていた。俺は負けない。俺は決して負けない。

 目を覚ますと窓から日の光が差し込んでいた。朝だ。
俺はベッドに横たわったまま首を動かして窓の外を見やった。砂だ。街は砂に覆われている。この街は見渡す限りの砂丘になっていた。
 砂丘の上に人が一人立っている。ゲリロか? 俺は必死でその男を凝視する。
『あの男は、ゲリロじゃない。ゲリロじゃない! あの男は俺じゃないか。俺はゲリロを出し抜いたんだ。俺はゲリロに勝ったんだ! ウハハハハハハ!』俺は笑い続ける。俺は可笑しくてたまらない。

 やがて俺を乗せた砂丘が、空を駆け上がる。
posted by sand at 18:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 超短編小説C | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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