2005年12月09日

2000 Miles @(It Must Be Christmas Time)

Learning to Crawl.jpgChristmas1.jpg
The Pretenders / Learning to Crawl

その日の日付を正確に思い出す事が出来る。
12月25日。1984年のクリスマスの事だ。

「昨日は、キウチと一緒だったんだろ?」僕は、アキコに聞いた。
アキコは、大袈裟に眉を上げただけで何も言わなかった。

僕はアキコとレコードショップに来ていた。
キウチは、サークルの飲み会だとアキコは僕に言った。

レコードショップには、イヴの夜は過ぎたとは言え、クリスマスソングが途切れる事なく流れ続けていた。
そのどれもが、僕には退屈に思えたが、前年の冬にリリースされたThe Pretendersの「2000 Miles」だけは足を止めて聴きいってしまう何かがあった。
その何かは、いつものように説明出来なかったのだが。

「あなたは、昨日は何やってたのよ」アキコは僕に聞いた。
「K君達と一緒に麻雀やって酒飲んでたよ」僕は答えた。
「モテない組織ね。それにしてもK君って素晴らしいよネ」
「僕もK君だけは訳が分からないよ」

K君とは、僕らの仲間内の名物男でブッ飛んだ言動で恐れられ呆れられていた。
でも僕らは彼のファンだった。

「あの人の脳は、どこか別の場所に繋がってるわよ」アキコはレコードの棚を眺めながら言った。
「どこかに繋がってるんだな?」
「そうそう。意外な場所。例えば・・」
「ラーメン屋?」僕はレコードをめくりながら聞いた。
「う〜〜ん。もっと上かな」
「じゃあ、ラーメン屋の2階とか?」
「そうね。もう少し狭い場所をイメージしてみて」アキコは腕組みして、そう言った。
「ラーメン屋の2階の流し台の扉を開けた排水管のソバでは?」
アキコは、うなずきながら、こう言った。
「まあ。良いでしょう。若干の誤差は考慮しましょう」
「若干なら申し分ないね。」僕は笑った。

1984年は、Princeの年だったのかもしれない。
僕は、彼が大嫌いだった。「Purple Rain」も下品な演歌もどきにしか聞えなかった。(その後、彼の大ファンになる)
しかし僕にはBruce Springsteenがいた。「Born in the USA」は、期待を遥かに上回る力作だった。しかし、BruceがMTVにちょこちょこ登場するのには抵抗があった。
それまでの圧倒的にストイックなイメージとは違う物を感じつつあった。

僕は1枚のレコードを抜き出した。U2の「焔」。リリースされたばかりの新譜だった。
「見るからに寒そうね。そのジャケット」アキコは僕に聞いた。
「う〜〜ん。音も、かなりの寒さだよ。」僕は答えた。
「ふうん。寒い音ってあるんだね」
僕はU2のアルバムを脇に抱えながら、こう言った。
「寒いけど燃えるよ〜」
「あなたに燃えるって言葉似合わないな」
「見るからに?」
「そう。見るからに」アキコは笑って言った。

アキコは、キウチの恋人だった。
キウチと僕とは中学以来の親しい友人で、僕は彼の事を信頼してたし誇りにも思っていた。

でも、いつからか僕とアキコは、キウチに内緒で会って話しをするようになった。

僕のアキコへの感情は、自分でも推し量る事が出来ない物だった。
僕とキウチは随分長い付き合いだったが、アキコとは、そうではなかった。
僕にとってはキウチはずっと近い距離にいた。アキコは、ずっと遠い場所にいる。

それでも僕はアキコと一緒にいると心が安らいだ。まるで古い古い友人と一緒にいるような気がしていた。

☆このお話しは、「Time After Time」と言うお話しの続きになります。


posted by sand at 03:42| Comment(2) | 連作小説・アキコ物(2000 Miles) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 1984年のクリスマスは、今はなき岩田屋新館から地下鉄天神駅のコンコースに向かって「シャンパンいりませんか!」といっておりました。岩田屋の酒売り場でバイトをしていてその日だけはそこで働きました。酒も飲めないのに酒を売り、うまいですよなんて言っていました。プリテンダースは何か背伸びしないと聞けなかったです。何かお姉さんの音楽のような気がしました。
Posted by ITORU at 2005年10月11日 18:28
>1984年のクリスマス

お〜。岩田屋ですか。時代ですね〜。私も福岡市にいたのかな?
毎年違うバイトやってたから、その年は何をやってただろう?
酒屋さんの配達か鉄工所だったけ?妙なバイトを探すのが好きでしたね。

>プリテンダース

何故か、当時から一貫して好きなんですよね。今でも頻繁に聴きますね。
クリッシー自身は、まったく好きになれないんだけど、声が好きなんですよね。それからバックがパブロック系(ニック・ロウ絡み)が多いんで、聴けば聴くほど味があります。
「ミドル・オン・ザ・ロード」なんかの荒々しい乗りは、今聴いても最高ですね。
Posted by sand at 2005年10月12日 00:47
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