2005年10月15日

見えない光

Air Cook Sky.jpg
矢井田瞳 / Air/Cook/Sky

激しく降る雨の中、車を走らせていた。
まだ時刻は午後3時だというのに周辺は、ほの暗い夕闇を思わせた。

道路脇に人が立って右手を上げて振っている。人の気配もない山道の途中だった。

「車のトラブルかな?」私は一瞬走り去ろうと考えたが、首を振って車を路側帯に止めた。

手を振っていた人影が、小走りに私の車に近づいて来る。私は、左のウィンドウを降ろす。

「すいません。連れと、はぐれてしまって。近くの街中まで乗せて頂けませんか?」
若い女だった。言葉遣いも丁寧だ。
私はロックを外して、女を横の座席に招き入れた。

女は、グッショリと雨に濡れている。ダッシュボードからタオルを取り出して彼女に渡した。

私は車をスタートさせ、タオルで髪を拭いている女の顔を覗き見た。
女はモデルのように整った顔立ちをしていた。あまりにも美し過ぎて、怖いほどの冷たさがあった。

「ありがとう。怜子と言います」
女は綺麗にタイルを折りたたみながら、そう言った。

街中までは、もう少し距離があった。私も女も黙って車に乗っていた。
私にも彼女にも共通の話題など存在しなかったし、私は彼女の美しさを意識し過ぎていた。

先に口を開いたのは女だった。
「ラフな服装ですね?お休みですか?」
「いや。仕事中です」

「自由業?」
「まあ。そんなものです」

「結婚されてますよね?車内を見れば分かります」
「ええ。子供もいます」

女は、少しの時間、言葉を切ってから、こう切り出した。

「あなたは、一人では逃げられない人ですよね?私が一緒に逃げてあげても良いわよ」

私は返事を失ってしまった。この女は、何を言っているんだろう?

「逃げる?」私は女に問いかけた。

「そう。一緒に逃げるの。あなたと私で。雨中に出会った見ず知らずの二人の男女が、行き先も決めずに逃げて行くのよ」

「わからない。何から逃げるんだ?」私は、もう一度女に聞いた。

「<見えない光>からよ。その交差点を右に曲がって。高速に上がる道に出るわ」

私は階段を踏み外すように、ウインカーを右に倒した。
私は、ずっと前から壊れていたのだろうか?私の築き上げて来た物は、一瞬のうちに消え去る物だったのだろうか?

<見えない光>が私を追い駆けてくる。私は身をかわす様に車を右に曲げた。


posted by sand at 05:33| Comment(2) | TrackBack(0) | 超短編小説B | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 自分は車で道すがらきれいな人が歩いていたりするとそんなことを考えることもあります。街角を歩いているときや、電車に(というよりもバス)乗っているときの方が同じような空想をしたりします。まあ、そんなときはいろいろな想像ができてとっても楽しい気分になります。生活の活力ですな。でも、逃げたらお金がとか・・何とか考えてしまうようになったのは年をとった証拠でしょうか。
Posted by ITORU at 2005年10月15日 07:26
まいどです。読んで頂いて、ありがとうございます。

このお話のポイントは、乗せたのが女で、しかも綺麗だったと言う事につきますね。

つまりエロ親父の妄想話と言う事になります。

車が右に曲がったのは、アレが右に曲がってたと言う深層心理のコンプレックスを現しています。
Posted by sand at 2005年10月15日 11:48
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